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【リリなの】Nameless Ghost

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従章 第七話 求められた力



(煙草が吸いたい、酒が飲みたい。あと、女も……)

 目覚めたアリシアが最初に思い浮かべたのはそんなことだった。その三つにおぼれることでベルディナは戦いから日常に意識を戻すことが出来た。たとえ、どれだけ負傷したとしてもそれだけは三〇〇年間変わらないベルディナの習慣だった。

「ああ、楽しかった。充実した戦場だった……」

 見覚えのない柔らかい枕とマットレスの感触を背中に感じ、アリシアは感無量の吐息をついた。

「目覚めたとたんにそれか。変態か? 君は」

 病室のベッドに横になるアリシアのその様子に呆れた声で話しかけたのは、若干憮然とした表情を浮かべるクロノだった。

「クロノ執務官か。状況は?」

 アリシアは上体を起こし、戦場の気迫の冷めないままの視線でクロノに目をやった。

「君が本局に連れ込まれ、およそ二時間が経過したところだ。敵は君が気を失った直後に撤退。なのはの砲撃が結界を破ったのが理由だ」

「戦闘は終了したのだな?」

「ああ、今フェイト達を呼んだ。じきに来るだろう。それまでに、その顔を何とかしておけ。フェイトやなのはが見たら泣くぞ」

「む、そうか。そうだな……」

 さすがにこの身ではベルディナのような手段は使えない。そう考え、アリシアはしばらく目を閉じ瞑想して呼吸を細かく区切り自分のうちからすべての思念を追い出す。
 その側のチェアに腰を下ろし、クロノは黙って彼女の様子を見守る。
 予想以上だったとクロノは考えた。アリシアが収容された後、戦場にいたデバイス達のレコーダーを回収しその記録を分析していたクロノはアースラでは終始モニターできなかった内部の状況を知り彼らの戦いぶりに驚きの声を上げていた。
 当初、戦う力を持たないアリシアを戦域に介入させることはクロノとしては反対だった。おそらくリンディもエイミィもあの場にいた者達なら誰もが反対しただろう。
 アリシアはまだバルディッシュ・プレシードを正式起動させたことがない。それは彼女のリンカーコアがまだそこまで成長していないためであるが、デバイスを使用できない人間が魔導師同士の戦いに介入できるはずがないとクロノは考えていたのだ。
 だが、結果はどうだ。正直なところ彼女がいなければあそこまで最小限の被害では済まなかったはずだ。確かに、アリシアは敵の攻撃によって気を失い、フェイトのバルディッシュは両断され小破、なのはのレイジングハートはしばらくの使用が禁止される程の被害を受けた。だが、人的な被害は殆ど皆無であり、バルディッシュもレイジングハートも修理さえすれば全く問題ないと診断されている。
 自分でもあれだけの戦術指揮が出来たかときかれればそれは否と応えるしかない。

(さすがは三〇〇年生きた魔術士か。どうやら、僕はアリシアのことを甘く見すぎていたようだな)

 クロノの背後の扉が開く音がした。

「お姉ちゃん!」

 扉が開くと同時に金色の髪を翻し、フェイトが急いでアリシアの元に駆けつけた。

「お姉ちゃん、大丈夫? 怪我は? 身体がだるいとか痛いところがあるとかない?」

 ベッドの上で瞑想するアリシアに、フェイトは遠慮なくつかみかかり、ぶんぶんと肩を揺すって姉の容態を確認しようとする。
 目を閉じたまま身体を揺さぶられるアリシアだったが、突然目を見開き、グーにした手を振り下ろし縋り付くフェイトの脳天めがけてそれを振り下ろした。

「――――っっ!!??」

 頭を突き通る衝撃にフェイトはうずくまり、少し目尻に涙をにじませた。

「落ち着け愚妹。私は平気だよ」

「ご、ごめんなさい。お姉ちゃん」

 それほど強く殴られた訳ではなかったのか、フェイトはすぐに痛みから立ち直りアリシアに謝った。

「いや、心配してくれてありがとう、フェイト。いきなり殴ってごめん」

 アリシアは少し落ち込むフェイトの頭を撫でながら優しく笑みを浮かべた。その笑みには、先ほどクロノと相対していた鋭利な雰囲気は存在しない。アリシアは普段を取り戻したとクロノは胸をなで下ろした。

『ねえ、ユーノ君。アリシアちゃんって結構厳しいんだね』 

 そんな彼らにおいて行かれた形となったなのははちょっと複雑な顔で隣のユーノに念話を送る。

『そうでもないよ。アリシアは基本的に過保護だからね』

 ユーノはベルディナと一緒にいたときの記憶と経験からアリシアの傾向を言い当てる。ベルディナは普段は素っ気なく、好きにしろ、勝手にしろと言いながらも最後の最後ではしっかりとフォローをしてくれる人物だった。その傾向は身内に対して特に強く表れがちだ。
 レイジングハートがなのはやユーノに対して口うるさい姉のような側面があることも、その影響だと言える。

『なんだか、レイジングハートに似てるね』

『……そうだね』

 ユーノはなのはの慧眼に正直舌を巻きながら苦笑を込めそう応えた。

 フェイトも落ち着き、アリシアも普段を取り戻した。ひとまず状況が落ち着いたことを感じ、この中では一応の年長者であるクロノは咳払いを一つして医務室にそろったメンバーを見回した。
 アリシアも先ほど医者先生から完治を通達され、病人服からアースラより届けられた普段着に着替えている。ちなみに、薄緑を基調とした上着とスカートに着替える際、男の視線があるにも関わらずいきなり服を脱ぎだしたアリシアは、フェイトとなのはをおおいにあわてさせていたのだが、その話は今はおいておこう。ちなみに下は白で上は付けていなかった。何がとは言わない。
 クロノの報告は実にシンプルなもので、敵の正体、その目的は不明だがアリシアに対する最後の攻撃は、管理局でも昨今問題になってきた魔導師襲撃事件とその手口が似ているためおそらく同一犯だろうという考察にとどまった。
 続いてユーノから報告されたことは、レイジングハートとバルディッシュの修理のことだった。アリシアの予測通り、バルディッシュは小破にとどまり、レイジングハートは中破程度の被害に収まった。
 そして、なのはの話を聞く限り彼女とあの赤い鉄槌の少女とは全くの面識はなく、彼女も事情を問いただそうとしても何も応えなかったというらしい。ただ一つ、敵方はこちらの命までもとろうとはしていなかったと言うことだけが分かった。
 そうつらつらと会話をしていたところ、リンディからの通信からアリシアの退院手続きがとれたとのことで医者先生からの締め出しを食らってしまったのだった。

「まあ、君が無事で何よりだ。僕たちとしては民間協力者の君が負傷したとあれば何かと管理責任が問われることになるんでね」

 医務室から追い出され、エイミィとアルフが待機しているデバイス保管庫に向かう道中、クロノはため息をつきながらそう言葉を発した。

「クロノ、そんな言い方しないで素直に心配だったって言えばいいのに」

 なのはとユーノの隣を歩くフェイトはそんなクロノの物言いにクスッと笑う。

「別に心配はしていなかったさ。アリシアの頑丈さというかしぶとさはよく知っているからね」

「あっは、それってクロノ君。アリシアちゃんを信頼してたってことだよね」