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【リリなの】Nameless Ghost

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従章 第三話 襲撃(前)



 足下に広がる雑踏と淡い光を放つビル群。それを俯瞰する少女はどうしてこの世界の人間はこうも気楽に生きていけるのだろうかと心に思った。
 夜の闇は嫌いだ、それはどこか自分自身の深淵を浮かび上がらせる鏡のように思えるから。
 そう思い、赤いドレスを身にまとう少女はそっとため息をついた。

「あたしも、臆病になったもんだな」

 そして彼女は最近家族となった一人の少女の朗らかな笑みを思い出した。あの笑顔を守るために自分は戦うのだと決意を新たにする反面、それを守りきれなかったときそしてそれが永遠に失われてしまったときのことを考えるとどうしても自分は弱くなってしまうと彼女は感じていた。

「様子はどうだ、ヴィータ」

 背後から届いた声に赤の少女は振り向いて目を向ける。そこには一匹の蒼いオオカミが表情の読めない視線で彼女を見ていた。

「ザフィーラか、あんまり芳しくないね。そっちは?」

 上空をに吹く若干強めの風に髪を抑えながら赤の少女、ヴィータは少しぶっきらぼうに応えた。

「どうもはっきりとしない。やはり、直接探索をかけんと無理かもしれんな」

 深く沈み込むような低い声で話す狼、ザフィーラからは一切の焦りは感じられない。それが単なる振りではなく長く戦い続けて来たものの持つ余裕であることはヴィータもよく知っていた。
 その冷静さは自分も見習わなければならないことだと肩をすくめるヴィータにザフィーラは背を向けた。

「手分けをしよう。闇の書はお前に預ける」

「あいよ、そっちもね」

 ヴィータは手に持つ大槌を肩に担ぎ、脇に抱えた本を腰の後ろの回して服に括り付けた。

「心得ている。ではしくじるなよ」

 ザフィーラはそう一言残し、闇夜の空に悠然とかけだしていく。

「心配性なやつ」

 徐々に遠ざかっていく彼の魔力反応を背中に感じ、ヴィータは少し頬をゆるませ、表情を引き締めた。そして、肩に担いでいた大槌型のデバイスを前方へとかざし、目を閉じ意識を術式構成にシフトさせる。

「封鎖領域展開」

 ヴィータのその静かな言葉に呼応して彼女の持つデバイスは静かにその身を明滅させ、担い手の要求する術式を展開していく。
 そして彼女を中心として球状の封鎖領域が広がっていき、その広がりと共に世界が色彩を失っていく。
 徐々に消えていく雑踏、街を歩く人々の群れからヴィータは意識を逸らし、その中にあってなおも存在し続ける反応を探り続ける。

「……魔力反応……目標補足……」

 ヴィータは目を開き、確かに存在するその反応に目を向けた。巨大な魔力反応。それこそが、彼女たちがここ二、三日の間に追い続けてきたものだった。推定AAAランク、そしてそれが持つ魔力パターンとを照合し、ヴィータは間違いないと断定した。

「フォース・ワークス………いこうか、グラーフ・アイゼン」

 漸く捕まえたと、ヴィータは口の端を僅かに持ち上げ、相棒である自らのデバイスにそう声をかけ、そして目標に向かって一直線に飛び立った。

(これで闇の書も一気に20ページだ。悪いけど、あんたの魔力を貰うよ)

***

「うん?」

 そういってなのはは、窓の外から感じた何らかの違和感に声を漏らした。

「何だろう? レイジングハート、分かる?」

《It confirms magic reaction detection, range expansion.Wide area sorcery art formula …… this is the kind of …… space blockade field》(魔力反応検出、範囲拡大を確認。広域魔法術式……これは……空間封鎖結界の類です)

 レイジングハートの言葉と共に、なのはの身体を何かの奔流が駆け抜けた。感覚が研ぎ澄まされていく、何者かの視線が感じる。なのははその違和感と不快感に眉をひそめ、レイジングハートを取り上げて立ち上がった。

《It receives the chord enemy of some person. It was sensed in the magic reaction》(何者かの索敵を受けています。魔力反応感知されました)

 向かってくる。なのはは漠然とそう感じた。何者かの悪意が僅かな魔力の揺らぎとなって脳裏をかすめる。

「ここにいちゃダメだよね」

 なのはの呟きにレイジングハートも光の明滅で応えた。

《It doesn't find that the goal has what anticipation but there seems to be malevolence of something of the fact to have blockaded space specially in the world out of the management. The master to let's move. As for being respectively even if it does a story to do it and it does it to fight, it is too, too, dangerous》(目標がどのような思惑を持っているのは分かりませんが、管理外世界でわざわざ空間を封鎖したということは何かしらの悪意があると思われます。移動しましょう、マスター。話をするにしても戦うにしてもここにいてはあまりにも危険です)

 なのはは無言で頷き、レイジングハートを首にかけ部屋をでた。
 自分以外の気配がしない。一切が結界の外に追いやられた。いや、むしろ自分だけが結界の中に取り込まれたと言うべきか。
 ここには優しい母も、穏やかな父も、心強い兄も、明るい姉もここにはいない。

『戦場は孤独だ。そして不条理で無意味だ』

 なのははかつてシニカルに笑う少女の言葉を思い出した。

「うん、そうだねアリシアちゃん。だけど、私は信じてるよ」

 こぼれ落ちそうになった涙をぬぐい、なのはは深(シン)と静まりかえる高町の家を駆け抜け、闇に沈む街へ自身へと舞い込んできた戦場へと戻った。

 離れていても心は繋がっている。絆があれば必ずまた会える。なのははそう信じて戦うことを決めた。

「だけど、まずはお話を聞かせて貰わないとねレイジングハート」

《Yes, make hear a story enough and let's get it》(ええ、たっぷりと話を聞かせて貰いましょう)


***

 静かな警告音の鳴り響くアースラの艦内。外装をすべて取り外され整備中だった艦は一時的に息を吹き返し、艦橋にはオペレーションモニターがノイズ混じりの状況を伝え続ける。

「状況を!」

 拘束中のアースラを動かすために上層部を黙らせてきたリンディは、そう声を張り上げ艦橋に入場を果たした。

「現在海鳴にて封鎖結界を確認しました。内部の状況は確認できませんが、なのはちゃんの魔力反応が僅かですが検出されています。それと同時にこちらのデータにない魔力反応が一つ。おそらく戦闘中と推察できます」