二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

【リリなの】Nameless Ghost

INDEX|30ページ/147ページ|

次のページ前のページ
 

序章 終話 君の名前は……



 人は何を持って自分を自分と認識するのだろうか? 私は私であるというその根拠は、いったいどこに存在するのだろうか?

****

 結果的に、なのはとフェイトの面会は制限が付きつつも許可が下りた。当然ながら、なのは達に連絡を入れることも地球へ転送するのも状況からして先のことになると言われたが、それでもフェイトの喜びようはアルフも呆れるほどのことだった。

「なのはと会ったら何を話そうかな。何かお土産でも持って行った方が良いかな。どう思う? お姉ちゃん」

 最近になって日課になりつつあるフェイトとアルフとを交えたお茶会に、ここ最近のフェイトの話題はそればかりだとアリシアは密かにため息をついた。

「土産といっても、アースラの備品は持ち出し禁止なんだがね。私も最近監視が厳しいからな」

 以前、数週間にわたって繰り広げられたリンディ、エイミィの二人とアリシアとの静かな戦争はアースラ艦内の風紀を乱しに乱しまくっていた。
 結局あの戦争は、いい加減我慢の限界を突破したクロノによって終戦を迎え、リンディには始末書と三週間の糖分摂取の禁止命令、エイミィには事態の収拾と糖分の禁断症状を引き起こす艦長の世話が言い渡され、アリシアには二週間の外出禁止が課せられた。
 当然、そこで儲けた金も没収となりそれらはアースラの維持費の一部に分配された。
 ついでに言うと、アリシアがそれまでに武装隊から巻き上げたギャンブルの金も一緒に没収されてしまった。
 つまり言えば、一文無し。アースラを降りた後の当面の生活費と考えていた予算は文字通りご破算となったわけだ。

 その一部始終を知らないフェイトは、どうして監視されるんだろうねと不思議そうな顔をしていたが、その一部始終に巻き込まれた(というよりはフェイトを守るために自ら矢面に立った)アルフは、自業自得だよといってアリシアの頭を小突いた。

「アルフ、お姉ちゃんを叩いちゃ駄目」

 フェイトは、ことアリシアに関しては非常に過保護になる。アリシアはアルフからの恨みがましい視線を見ないふりしながらそれを考えていた。
 確かに、プレシアのいない今となっては唯一の肉親であるアリシアを大切に思う気持ちはよく分かる。しかし、クロノから聞かされた事が少し脳裏をよぎった。

『フェイトは僕達の要求に良く応えてくれる、とても従順だ。だが、それだけなんだ。必要以外の会話なんて殆ど皆無だよ』

 フェイトは周りを見ていない、ようやく明るくなったと言っても、それはアリシアとアルフの前だけだ。

(結局、心を閉ざしてるって事なんだよな。わかりにくい分、今まで以上に状況は悪いか)

「ねえ、聞いてるの? お姉ちゃん」

 おっと、とアリシアは少し思案に沈んでいた意識を持ち上げ、少し頬を膨らましているフェイトに気がついた。

「ああ、悪いね。少し考え事をしていた」

「そう、お姉ちゃんは私の話なんて面白くなかったんだね……」

 先ほどまでの高揚がまるで嘘のように反転するフェイトにアリシアは苦く思いながら、不器用な笑みを浮かべフェイトの髪を撫でた。
 とても柔らかで淑やかな金の髪はよく手入れが行き届いている。

「悪かったよ、機嫌を直してくれフェイト」

「あ、う、うん。ありがとうお姉ちゃん」

 そして、すぐに機嫌を直し頬を赤く染めるフェイト。
 拙いなぁとアリシアは思う。
 起伏が激しすぎる。ふとしたことで、躁状態と鬱状態が入れ替わり、余裕がない。というより、アリシアとのふれあいを何とか良い雰囲気にしようと必死になっているということが分かりすぎる。
 おそらく、と、アリシアは頬に笑みを浮かべながらも胸の内でため息をつく。おそらく、フェイトの心は既に悲鳴を上げている状態なのだろう。
 見捨てられたくない、見放されたくない、自分を必要として欲しい。酷いほどの依存。それを奪われればおそらく、フェイトはもう立ち直れない。今は自分たちがいるから何とか保っていられるが、本局の保護となり、アリシアと切り離されればその後どうなるか分からない。

 問題は山積みだ。しかし、フェイトとなのはが会えるということはその中にあっても良い影響になるはずだとアリシアは考えていた。

「そう言えばさ、アリシア。最近、チビ助(クロノ)と何かやってるみたいだけど、何してんだい?」

 半ば引きこもりのフェイトと違い、アルフは暇を見てはアースラを歩き回りそこそこの情報収集を行っている様子だった。
 その中でアルフはたびたびクロノとアリシアが何か打ち合わせのような、報告のようなものをしていることに気がついていた。

「ああ、高町とユーノへの私なりのプレゼントの準備といったとこかな。ちなみに内容は秘密だ」

 なのはへのプレゼントというフレーズに目を輝かせたフェイトだったが、アリシアが秘密と言った事に気を落とした。

「お姉ちゃんはちゃんと考えてるんだね。私は、どうしようかな」

「まあ、自分なりによく考えてみることだな。まだ時間はあるさ」

 フェイトがなのはと会えるのは、後二週間後。あの事件が一応の終結をみて、一ヶ月後の事だった。

*****

「これが最後の書類だ」

 と、なのは達との面会を明日に控えた夕食後、クロノはそう言ってアリシアに一枚の書面を手渡した。

「何とか間に合ったか。悪いね、かなり手を煩わせてしまった」

 その内容に不備がないことを確認し、アリシアは深く頭を下げた。クロノはそんな彼女の行動に目を丸くして驚いていたが、頭を上げたアリシアの悪戯好きな眼差しを見て、すぐに仏頂面に腕を組むと、

「別に、艦長が認めたことだ。それに、僕も艦長も君の提案を是とした。君が気にすることではない」

「律儀な奴だね、君も」

「君もたいがい過保護だな、アリシア・アーク」

 この二人の関係を言葉にするのは難しい。本来なら保護する側と保護される側であるはずが、いつの間にか二人はリンディを含めて何処か対等な関係を取るようになっている。
 それは、その二人がアリシアをベルディナと認めた事に起因するのかも知れないが、二人のハラオウンはアリシアをフェイトの姉として認識している部分が大きい。
 信頼関係と言うには浅く、友人関係と言うには年が離れすぎている。しかし、この三者は誰もが今の関係に何かしらの安息を与えられているのも確かなことだった。

「元とはいえ、家族に対しては誰しもこんなものだろうさ。君はそうではないのか? 執務官」

「ノーコメントとさせてもらおう」

 仏頂面ながら何処か機嫌の良いクロノはそう言いつつもにやりと笑みを浮かべていた。
 先日、フェイトの処遇が決定した。本局帰還後、フェイトは直ちに拘束され、アースラの預かりとなる。その後、フェイトは嘱託魔導師(正規局員ではないが、高い権限を持たされる外部協力者)の試験を受けることとなる。それは、将来管理局に忠誠を誓う予定だとアピールすることで裁判をより有利にするための配慮だとアリシアは説明された。
 そして、アリシアは、一時期は自分も嘱託試験を受けようかとも思ったが、アリシアの魔法適正からは到底受かるはずもないとリンディ、クロノ両名から却下を食らった。