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【リリなの】Nameless Ghost

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序章 第十話 束の間



「クロノ君って、ひょっとしてすごく優しい?」

 というなのはが残した言葉によるクロノの狼狽ぶりはアースラの一種の名物となっていた。
 アリシアもその場に居合わせ、それを直に目にしたわけだが、ひとしきり馬鹿笑いをして悶絶して、呼吸困難に陥ったあげく医務室の急患になるという事件を彩った当事者となってしまっていた。
 まあ、そのためになのはの肩の上でクロノを親の敵を見るような目でにらんでいたユーノの存在は(フェレットの表情が人間では読み取れないことも相まって)華麗に無視されてしまったのだが、それはまた別の話だ。

「うん、茶が美味いな」

 アースラで連日話題になっているその事件のあらましを一通り説明し終わり、アリシアはようやく自由になりつつある腕で紅茶の入ったカップを傾けていた。

「あんた、何でこんなところで茶なんてしばいてんだい?」

 牢獄という名目でフェイトとアルフに宛がわれた部屋のベッドに腰掛けながら、いきなりやってきた招かれざる客であるところのアリシアをアルフはうさんくさそうに睨み付けた。

「君も飲まないか? 厨房で見つけた結構いいやつなんだ。しかも、料理長が隠していた極上のシングルモルトを少し垂らしてある。風味といい味といい、最高だね。まあ、入れ方は適当だけど」

 アリシアは物には拘るが、手段には拘りを見せない質のようだ。
 本来なら、しっかりとした温度管理と蒸らす時間を調整して慎重に点てるべきヴィンテージティーを実にずさんな方法で抽出しているため、味も香りも随分崩れ去ってしまっている。
 それでも、安物より遙かに上質な味と香りを保ち続けるそれは、さすがと言うべきヴィンテージの許容力と言うべきか。

「そんな事じゃないよ!」

 と、アルフはベッドをたたきつけた。
 アリシアもアルフが言いたいことはよく分かっているつもりだった。フェイトの言うとおり、アルフはアリシアと会いたくなかった。それでも、フェイトのいない状態で部屋に入れてくれたということは、それほど拒絶もされていないのかとアリシアは思っていたが、どうもこの手合いは持久戦が強いられる様子に見える。

「あのときは悪かったと思ってる。私も頭に血が上っていたせいで、君や君のご主人様にかなり辛辣な事を言ってしまった。どうか許してくれないかな」

「それは、良いんだよ。あたしだって、あのときあんたには酷いこと言っちまったわけだし、フェイトも気にしてないってんならあたしからどうこう言うわけにもいかないさ」

 しかし、それでもアルフはうつむき、

「それでもさ、あたしの中ではまだあんたが元凶だ許せないって思う所があるんだよ。本当は違うって、あんたもプレシアの被害者だって事ぐらい分かってんだけどさ。あんたがいたせいで、フェイトはあの鬼婆から酷い事されてたんだって考えると駄目なんだ。押さえられないんだよ」

「そうか」

 アリシアはそんなアルフの様子から彼女の事を、感情的になりやすいが愚か者ではないという評価を下した。
 理性的な部分がしっかりとしているのなら、後は時間の解決を待つのが常套手段だ。
 しかし、アリシアは一つだけ言っておきたいことがあった。

「別に、君が私を怨むことを非難してるわけではないんだ。それは君達の当然の権利だと思ってるし、私もその恨みを受ける義務があるとも思ってる。まあ、責任を取れと言われては困るけどね」

 アリシアは少し冷めた紅茶を飲み下した。

「フェイトはあんたのことをお姉ちゃんって呼んでる」

「ああ、そうだね」

「あたしはフェイトの使い魔だ。フェイトはあたしのご主人様だ」

「間違いない」

「だから、あたしも、出来る限りあんたとは仲良くなれるように努力する。すぐは無理かもしんないけど、頑張る」

「そうしてもらえると、私も嬉しいよ」

 何よりも面倒が減る、という言葉を紅茶と共に飲み下しアリシアはアルフにカップを手渡した。
 アルフは何も言わずそれを受け取り、アリシアにされるままに紅茶を振る舞われ、そしてそれを飲み下した。

「ああ、ちょっと冷めてるけど美味いよ」

「それは、何よりだね。さすがヴィンテージ」

「葉っぱ、ちょっと分けてくれるかい? フェイトにも飲ましてやりたい」

「だったら、次はフェイトがいる時でどうかな? 料理長も当分は気づかないだろうし」

「はは、それ良いねぇ。だけど、ほどほどにしときなよ。ついでに次はあたしも誘いな。これでも鼻は効くんだ」

 アルフの笑みはやはりぎこちなかった。当たり前だとアリシアは思う。そんな簡単に割り切れることなら、最初から感情的にはならない。感情によって紡ぎ出された言葉は単純であるからこそ根深い。
 だが、アリシアは表面だけでも自分に合わせようとするアルフの様子に胸の内で安堵のため息をついた。
 そう、アルフはフェイトのことを第一に考えていればいい、守られるべきはフェイトだ。出会ったときもそうだったが、アリシアの目からしてもフェイトは何処か脆く儚い。
 最初から最後まで、全幅の信頼と下心の混じらない愛情を持って側にいる者が必要なのだ。そして、アリシアは自分ではそれは勤まらないということを知っていた。

(結局、私は目的のためなら人を騙し、信頼を裏切って仲間を見捨てる人間だからね)

 ベルディナが生涯に買い取った恨みや憎しみ、復讐など星の数ほどに登る。それでいて、彼はそれに対して僅かな罪悪感を感じるだけで、後悔をしたことがなかった。

(そんな私が、自分を信頼しろとか、仲間を信じろとか言えるわけがない。結局、最終的にはフェイトやアルフを裏切ることになるかもしれない)

《だめぇーーー!!》

 一瞬、アリシアは目眩を感じた。
 そして突如にわき上がる吐き気と頭痛に、アリシアは口元を押さえ身を縮め込ませた。

「あ、あんた、どうしたんだい?」

 いきなり身を伏せたアリシアに当惑し、アルフは彼女に駆け寄り背中をさすり始めた。

「い、いや、何でもないよ。少しぶり返したのかも……」

「あ〜、えっと、だったらなにさ。先生呼ぶかい? それとも医務室まで送ろうか?」

 こいつ、なんだかんだ言って面倒見はいいのだな。とアリシアは少しだけ口の端を持ち上げながら、呼吸を整え何とか首を振って答えた。

「大丈夫。何とか落ち着いた」

 といってアリシアは車椅子の背もたれに深く背中を預けながら、ふう、と一息ついた。

「少しはしゃぎすぎたみたいだ。悪いね、私はそろそろ戻らせてもらうよ」

「あ、ああ。大事にするんだよ、あんたがそんなだと、その、フェイトが心配するからさ」

「んん? 君は心配してくれないのか? アルフ」

「何であたしがあんたを心配しなきゃならないんだい!! さっさと行きなアリシア。さもないと先生にあること無いことチクルよ!!」

「無いことまで言われては堪らないね。それじゃあ、そうさせてもらうよ。フェイトによろしく」

 アリシアはその言葉を最後にアルフに手を振って彼女たちの自室から立ち去った。