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【リリなの】Nameless Ghost

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序章 第六話 歪な名前(前)



 崩れゆく庭園の名を借りた城、深い虚数の海へと沈み込む狂える母の嘲笑。
 アリシアが最後まで覚えていたものはただそれだけだった。

 自分はよっぽどこの感覚に愛されているのだなと、アリシアは既に慣れかけている感覚に導かれ緩やかに意識を取り戻した。

「あ、えっと……起きた? アリシア……」

 目覚めた視界に映りだしたのは、白色に塗られた面白みのない天井と緩やかな光に調整された人工の光だった。
 隣から聞こえる凛としていながらも、どこか儚い声は最近になって聞き慣れた声だった。

「ああ、君か。おはようと言えばいいかな」

 言うことを聞きそうにない身体を何とか動かし、首を横に倒すと、そこにはどこかおどおどとした様子の金色の髪の少女、フェイトがアリシアの表情を伺っていた。

「う、うん。おはよう、アリシア」

 フェイトはそのままアリシアと挨拶を交わすと、そのまま黙り込み、まるで椅子に縮こまるようにうつむいてしまった。

(まあ、あれだけのことを言ったわけだから、怖がられたり嫌われたりしても不思議ではないか) 

 別段仲良くする気もないがと思い、アリシアは身体の各部を細かく動かそうとして失敗した。痛みは感じない、しかし、まったく力が入れられる感覚がしない。
 顎が動き、まぶたが上下でき、眼球を動かせる事が何かの奇跡と思えるほどまったくダメだった。

(記憶が確かなら20年以上を死人として過ごしたわけだから、しかたがないかな)

 プレシアの牙城、時の庭園で動き回ったところ、アリシアは自分の身体が4〜6歳程度の年齢だという事を確認した。

(確か、アリシアの最後の記憶では5歳だったはずだ、だいたいあってはいるか)

 318年の時を生きた魔術士が、今では身体すら満足に動かせない幼子になり下がった。ベルディナの超常的な精神力を受け継ぐアリシアでも、それまでの努力と研鑽がただの知識でしか役に立たないと考えると、少しまぶたを濡らしてしまいそうな気分に襲われるようだった。

「命が助かっただけでもよしとするか……」

「え?」

 今まで黙りこくって会話もなかったところに、いきなりのアリシアの独白にフェイトは眼を白黒させた。そして、混乱の納まりきらないまま、フェイトの背後の扉が機械質な駆動音を奏で開かれた。

「そう思うなら、もう少し大人しくしていて貰いたいものだ、アリシア・テスタロッサ」

 アリシアは再び首を傾け、その声の主を追った。

「クロノ・ハラオウン執務官、それに、確かリンディ・ハラオウン艦長だったか。それと、白い魔導師にユーノ・スクライア、フェイトの使い魔か。そろい踏みだな」

 アリシアは正直さっさとベッドをリクライングして楽な姿勢を取らせてほしかったが、あいにくそこまで気を回せる人間はここには居なかったようだ。

「ひとまず、ご苦労様と言っておくわアリシアさん。それで、二、三聞いておきたいことがあるのだけど、いいかしら?」

 リンディはそう言うと柔和な笑みを浮かべながら、アリシアに最も近い丸椅子に腰を下ろし、にっこりと微笑みかけた。

(うん、魅力的な笑みだ。やはり、女性はこうではなくては)

 アリシアはその笑みに少しだけ癒されると、少し真面目な表情をしてリンディの目をしっかりと見た。

「ハラオウン艦長。一つお願いがあります、聞いていただけますか?」

「あら、何かしら?」

「もう少し楽な体勢が取りたい、背もたれをいただければ」

 キョトンとした表情を浮かべたのはリンディだけではなく、フェイトを初めとした少年少女たちも同じだった。

「あらあら、ごめんなさい。気がつかなかったわ、すぐにマットを起こすわね」

 ベッド脇の端末を操作しようとするリンディを制して、彼女の部下とも言えるクロノが代わりにそれを操作し、ゆっくりとアリシアは背を押され、普段ソファーに腰掛ける程度の自然な体勢になった。

「やはり、重力がなければ人は生きてはいけませんね。そう思いませんか、ハラオウン艦長」

「あら、なかなか詩人なのね貴女。確かにそうだわ、この重力のない時空間の海でも私たちはわざわざエネルギーを使って、こうした疑似重力を発生させている。結局の所、文明がどんなに栄えたとしても人間の根本は変わらないのかも知れないわね」

「その通りですね、ハラオウン艦長。そして、人間が渇望するものも根本的には変わらないのでしょう。たとえば、死者の復活だとか、心の有りどころの創造だとかね」

 アリシアとリンディが世間話よろしくなにやら哲学的な事を話し出したために、置いてけぼりを喰らった若年組は、アリシアが突然はなった言葉の端々に敏感に反応を返した。

(当然、知っていることだろうな。さて、どのようにいいわけをしたものやら。困ったもんだ)

 プレシアの犯罪、フェイトの罪状、確かに管理局局員として犯罪者を取り締まる立場にある彼らだが、一番の興味どころというよりはネックともなり得るアリシアの存在は何を置いても確かめなければならない事柄に違いないだろう。本来多忙な身の上である艦長とその執務官が顔を揃えて、しかも<ruby><rb>件<rt>くだん</ruby>の当事者であるなのは達を引き連れてまでアリシアの覚醒を待っていたのだ。

「本題に入りましょうか、アリシアさん。クロノから一度聞かれた事だと思うけど、貴女は何者なのかしら」

 にこやかな空気で腹の探り合いをするのは時間の無駄だと理解したリンディは、表情を引き締め上に立つものの顔を見せた。

(凛々しいた女性もまた魅力的だな)

 その思考を読まれないよう、アリシアは少しだけ目を閉じ呼吸を整えるかのように息を一つはいた。

「私はアリシア・アーク・テスタロッサ。この身体は間違いなくプレシアテスタロッサの娘だ」

 アリシアが意図的につけたアークの名に、ユーノは僅かながら反応を返した。しかし、この場での発言を許可されていないのか、彼がそれについて問いただすことはないようだった。

「巫山戯るのもいい加減にしろ、プレシアの娘アリシア・テスタロッサは、既に26年前の事故で亡くなっている」

 どうやら、アリシアの交渉人は、いや尋問者というべき人物はリンディとクロノの二人となっているらしい。この調子では、この部屋の風景もあの利発そうな少女、エイミィが逐次モニターしていることだろう。
 うかつなことは言えないが、嘘をついたところでメリットはない。事実、アリシアはまともに身体を動かせる状態ではなく、どうあっても何者かの保護下に入らざるを得ない状態なのだ。
 対等の立場はあり得ない、正にこれは交渉ではなく尋問なのだ。
 だが、尋問ならある程度の黙秘権を行使させて貰ってもいいだろうと思い立ち、アリシアはその方針を決めた。

「ならばDNA判定でも行ってくれればいい、アリシアのDNA情報が無くとも、そこにいるフェイトのものと比較すれば自ずと答えは出るだろう」

 しかし、アリシアの予想ではそれは既に行われているはずだった。本来なら法執行機関の人間が例え拘束中の捕虜であっても本人の承諾無しにそれを行えば、明かな越権行為と見なされ処罰の対象となる。