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【リリなの】Nameless Ghost

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従章 第十五話 情熱はすれ違いを生み出す



 タタタという軽快な足音になのははえもしれない感覚を覚えながら、次第に苦しくなっていく呼吸と鼓動に歯を食いしばりながらそれでもがむしゃらに廊下を駆けた。
 何故こんなに心がざわめくのか。居心地の良いはずだったあの場所から逃げ出して自分は一体何処へ向かおうとしているのか。

 なのはは荒ぶる吐息と共にいい知れない驚異に心を乱しながらそれでも翔る足をゆるめることはなかった。
 そして、その脳裏に響き渡る一つの言葉になのはは立ち止まり頭を抱える。

『なのはは戦うことが好きなんだね』

 何の前触れもなくはき出されたその言葉になのはは一瞬心臓を鷲づかみにされた感覚だった。

 戦うことが好き。それはどういうことなのだろうか。何故彼女は自分を見てそんなことをったのだろうか。
 心当たりはある。自分は、一人の少女を助けたいがために戦った。そして、そのために鍛錬を続けてきた。
 それは、自分にとって誇らしいことだった。何の役にも立たないと思っていた自分自身が、こうして人のために何かできると分かったことが何よりもの喜びだった。
 そして、その戦いが終わった後も、自分は「いくら何でもやり過ぎじゃないか?」というクロノの言葉を笑い飛ばして鍛錬を続けた。

 だったら、それは何のためだったのだろうか。

 なのはは、そこに思い当たる。フェイトと対立していたとき、その時は必要あっての事だった。訓練をしないと彼女に言葉を聞いてもらえない、悲しみに沈む彼女を助けられないし、出来たばかりの何処か放っておけない友達のユーノを助ける事も出来なかった。

 だったら、その後に自分は何を思って魔法の訓練を続けていたのだろうか。

(分からない。私は、ただみんなと繋がっていられるから。魔法を使うことが楽しいから練習してた)

 クロノやアースラの面々に対しては、『有事に備えるため』という理由で管理外世界での魔法行使を黙認して貰っていたのだ。そうしないと、管理外世界での異邦魔法行使で逮捕されちゃうからねと笑うユーノにと一緒に笑いあっていたものだ。

 そして、有事は起こった。それまでの訓練が無駄にならないどころか、これからさらなる訓練を積み重ねる必要が生じた。
 それは、本来なら来ない方がいい状況だったはずだ。

(だけど、私は……喜んでたのかもしれない)

 なのははあの戦闘が終わってからの自分というものを正確に分析を始める。
 怖かった、嫌だと思った。いきなり襲いかかってこられて、大怪我寸前の負傷をして、レイジングハートが壊れ、友人達も傷ついた。何よりも、本当なら一番傷つかないはずのアリシアが意識を失うほどの負傷を受けた。
 あんな戦いを二度と繰り返しちゃダメだと思った。しかし、それでも心の奥の方で、自分はまた戦えるという喜びを感じていなかったか。
 今度は、親友になったフェイトと初めての男友達であるユーノと一緒に戦えると、嬉しく思っていなかったか。

『なのはは戦うことが好きなんだね』

「違う。それは、違う……私は、争うことが好きなんじゃない!」

 だったら、何故戦おうとするのか。
 この事件が起こったとき、クロノとリンディは確かにこういった。

『なのはは無理に戦う必要はない。確かに、なのは程の魔導師が協力してくれればこちらも大いにありがたいが、今後あれ以上の危険にさらされる可能性も高い。僕達のことを心配しなくても大丈夫だ。そのための訓練は受けているからね』

 その時自分はなんと答えたのか。

『大丈夫だよ、クロノ君。私は、私が協力したいから協力するんだよ。だから、心配しないで』

 そう、自分は協力したいから協力すると答えた。それはつまり、考えようによっては『戦いたいから戦うんだ』と宣言したようなものではなかったか。

「分からないよ。私は、戦いたくないのに。傷つけたり、傷つけられたりするのはいやなのに」

 なのはは俯いて目をギュッと閉じた。
 見たくない現実から逃れるためか、それでも心に浮かんだ疑念は晴れない。
 このままでは自分は戦えない。

「どうした? なのは」

 そんなとき、なのはの耳に一人の男の声が届いた。

「クロノ君……?」

 なのはは親しい人の声に面を上げた。

「ああ、僕だが。どうしたんだ? 随分顔が赤いが」

 なのはは「ふぇっ!?」っと声を上げ、走ったせいで少し火照った頬に手を当て、少し恥ずかしそうに俯いてしまった。

「本当にどうした? 誰か人でも探しているのか?」

 何となく、クロノは居心地が悪かった。いつもなら、朗らかに聞いているこちらが赤面してしまいそうな事を臆面もなく口にして微笑む彼女が、今は全くその逆になってしまっている。
 クロノの印象としてのなのはは人見知りしない、物怖じしない、ある意味厚かましいほど優しくて、それでいて押しつけがましい印象を与えない。そして、何より周囲に笑顔を振りまいて、いつの間にか不安も何もかもを和らげてしまう、そんな女の子だった。

 ただ、唯一彼女が平静を失う要素をクロノは知っていた。

「ユーノが何かしたか?」

 なのはにとってユーノは地雷だと分かっていながらそれを指摘するのは中々勇気のいることだった。しかし、クロノが知る彼女が比較的ネガティブ寄りにならざるを得ないような要素といえば彼の存在しかないのも事実だ。

 ユーノという言葉が出てなのはは一瞬惚けたようにまじまじとクロノの顔をのぞき込むが、ハタと自分が何を言われているのかに気がつき、一生懸命首を振ってそれを否定した。

「ユーノ君は関係ないの! ユーノ君じゃなくて、アリシアちゃんに……えっと……」

 改めて言うには難しいとなのはは思った。少し冷静になって考えて見れば、アリシアが何気なく言った一言に自分が勝手に狼狽して勝手に悩んでいるだけだととらえることも出来る。

「またアリシアか……あいつの言うことはあまり真に受けないほうが良いぞ。アレはアレで結構行き当たりばったりの適当なことを言う事が多いから、一から十まで気にしていたら負けだ」

 クロノは額に手を当てて、あいつはどうしてこう厄介ごとばかり持ち込むのかと本気で呪いを送りたくなってしまった。

「で、でも。とっても重要なことだと思って……」

「あいつがそういう言い方をするからだ。時々あいつなら口先だけで世界がとれるんじゃないかと本気で思うよ。それで、なんて言われたんだ?」

 クロノは実際本気でそう思っていたが、それでもその中の一部には本当に重要になるものが含まれている事も理解していた。しかし、そう言うことに限って何気ない風を装って言うものだから、彼女と話しをするときは常に頭を回転させておかないといけないのだ。
 端的に言えば、彼女と話すのはとても疲れるのだ。しかし、脳に余裕があるときであればまるで思考ゲームをしているような楽しさがそこにはある。そのため、休日の空いた時間にはリンディを交えて日もすがら会話に花を咲かせていたものだった。

 クロノはなのはの様子から、またぞろアリシアのバカみたいに壮大に装った話術になのはがはめられたのだろうと予測した。