小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
フレンドボーイ42
フレンドボーイ42
novelistID. 608
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

ちょっと不思議なショートショート

INDEX|1ページ/1ページ|

 
俺は今をときめく男だ。といっても人気があるとか、そもそもの話有名な俳優とか劇作家というわけではない。犯罪者でもマッドサイエンティストというわけでもない。事件の被害者ですらない。俺の名前を知っている奴は少ない。そして、俺を街で見かけても、きっと目にもとまらないだろう。だが俺にはすごい力があるのだ。
 俺は、人を深層心理や潜在意識といったレベルから操れるのだ。それも別に不思議な呪文やフェティシュを必要とはしない。変な着物を着る事もない。当然だが自己流の憲法や新宗教でもない。普通の格好をして、ふつうの人間らしい姿をしていればいい。休みの日にTシャツを着て、下にジーンズ一本はいて町に繰り出す。そして、そこで金を持っていそうな人を見つければ、俺はその人の意識に働きかける。そう思うだけでよい。たとえば、「ロッカーにパスワード011044(分かるだろうが、「お・ひ・と・よ・し(御人好し)」である)と入れ、そこに自分の通帳とそのパスワードを入れろ」と命じれば、俺はその人の金をかっさらうことができる。ヤクザどもがいて、「俺の舎弟になれ」と命じれば、俺にそいつは「兄貴!どうかよろしくお願いします!」と頭を下げに来る。おまわりさんに「見逃せ」なんか言えば、彼は「今回だけだ」と、殺人容疑すら見逃してくれる。
 俺は大変この力に入れ込んでいた。
 この力さえあれば職場で気に入らない奴が、俺の目の前で電車に飛び込むのだ。この力があるおかげで、俺は金を持たずのタダ食いさえできるのだ。
 俺が最初にこの力に気がついたのは、俺が大学生くらいの時だった。気に入らない教授を見て、「あいつなんてトイレで頭打って死んじまえばいいのに」と思っていると、小便をし終えた俺の前に教授が現れて、洗面台に頭をぶつけて即死した。俺もほかのトイレ使用者も皆釘づけになった。俺はさらに確かめるため、とある場所に行った。
 そこは河川敷だ。そこに俺はある男を見つけた。いつもここに来る、さえない格好をした奴だ。どうやら人生に絶望しているらしい。俺はそいつが、しかし死ぬことをちゅうちょしていることを知っていた。俺は念じた。「今すぐホームセンターに行って、売り物の包丁をとって自分の体を十数回刺せ」と。するとその男は猛然とダッシュし、その近くのホームセンターに駆けつけると、すでに死んでいた。店員が何やら焦った口調で電話をしている。俺は何も知らない顔して「一体何が起こったんです」と、近くにいたおばさんに尋ねると、おばさんは「いきなりこの人が入ってきて自分の体を何度も何度も包丁でぐさって刺したの」と、恐怖を交えた顔と言葉とで答えてくれた。
 俺は大学の同期の、いわゆる美少女を狙っていた。彼女は俺の事など知らない。だが俺は念じた。
 「俺のことを好きになれ」と。
 そのあと、彼女はやってきた。俺は命じ続けた。「俺以外に価値を認めるな」「俺の命令には服従しろ」「俺を絶えず考えていろ」と。彼女はついに俺以外の者が目に入らなくなった。俺が命じればデートにも来るし、俺が命じればどんな恥ずかしい事でもした。一人暮らしのアパートに住んでいた俺は、そいつをうちにとどめ続けた。
 やがてそいつ飽きた俺は、そいつに「河川敷に飛び込んで死ね」と心の中で命じた。数日後、河川敷で若い女子大生の死体が発見され、テレビや新聞でニュースが沢山取り上げられた。しかし俺も少しばかり疑われた。俺は「俺を疑うな」といろんな奴に命じたため、何とか逃れられたものの、面倒だな、と思った。次の彼女を始末するときは、第三者、それこそどこにでもいそうなサラリーマンに殺させた。そのうえで、俺はそいつが結婚しているのを知り、「『浮気していたら本気になって殺してしまった』といって自首しろ」と伝えた。
 俺は今や何でも操れる。今俺が住んでいるのはものすごく素敵な住宅であるだろう。でかい敷地にでかい庭。当然だがあくせくして稼いだ金でなく、金持ちどもに裏から金を回させて建てたものだ。一応取引をしていることになっている。俺は社長なのだ。一方いろいろ知られたくないからマスコミにはうちに入れさせない。俺は順風満帆だ。メイドたちをたくさん。皆かわいい子たちだ。給料?そんなもの払ってなんかいない。彼女たちは俺が操っているのだから。
 俺はずっと幸せだと思っていた。しかし。

 寝ている俺の枕もとに、確かに男が現れた。
 「だ、誰だお前は」
 「お前はいろいろな人の心に働きかけ、それをひどいことをするよう命じたな」
 「な、なぜそれを知っている」
 「お前は人の心を思うままに操り、お前の好き勝手にしたな」
 「そ、それがなんだというんだ」
 「俺はお前にそんなことをさせるつもりでその力を授けたのではない。俺はお前の先祖だ。俺は政治家たちが好き勝手するのが許せなかった。そこで革命を起こそうとしたが、うまくゆかない。そこで4代あとに心を掌握できるものが生まれるよう願ったのだ。しかしお前はなんだ。民の理服なんてものを望まず、己の私利私欲に働くお前はかつて、いや今でもだ、政治家の大半と同じじゃないか。許しておけぬ。お前は今から死ぬのだ」
 俺は動こうとした。話そうとした。しかし体が思うように動かない。
 「お前の力を奪った。今は俺が、力を持っている。これからお前は心臓まひを起こす。俺はこれから、この力をもっとまじめなことに使ってくれる奴を探すことにするよ」