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ジョナサンの長い一日

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ジョナサンは自分の部屋で遊んでいた。ひとりぼっちだった。いつもは屋敷の使用人が暇を見つけては、遊んでくれる。だが今日は、あいにくみんな忙しいらしい。みんなは口々に、「うちの会社の株が暴落した」と言っていた。まだ5才のジョナサンには、その言葉の意味は分からない。でもとにかく、みんなが忙しくしていることは、その慌ただしい様子から見てとれた。だから一人、部屋の中で大人しくしている。ふと、ジョナサンの腹の虫がグーッとなった。
「お腹空いた……」
 そう呟き、時計を見る。ジョナサンは朝起きるときの8時と、お昼の12時と、おやつの3時と、晩ご飯の7時と、夜寝るときの9時なら、時計を読むことができた。時計を見れば、今は3時である。おやつの時間だ。でも今日は、忙しさのため使用人はおやつを持ってくるのを忘れているらしい。
「ショートケーキが食べたいな」
ジョナサンはキッチンのある1階を目指して、階段を降りて行った。1階の大広間に行けば、初めてみるスーツの人たちがたくさんいた。たぶん、ジョナサンの父親の会社の人だろう。小さなジョナサンがキッチンへと向かって行く姿に、スーツの人たちは誰も気づかなかった。難しい顔をして、手元の書類から目を離さない。ジョナサンはキッチンへと入る。
「あれ、誰もいない……? まあ、いっか」
 無人のキッチンを進み、ジョナサンは奥にある冷蔵庫の扉を開ける。ぎっしりつまった食材の中には、いちごも、ケーキのスポンジも、生クリームも入っていた。
「よし。僕がおいしいショートケーキを作ってやるっ!」
 ジョナサンは早速ケーキを作り始めた。ボールを取り出し、生クリームをそこに入れる。電動の泡立て器を持ってきたが、小さなジョナサンにそれは重かった。少しの間なら持てるが、長時間は無理だった。これでは生クリーム泡立てることができない。
「ちぇっ。しょうがないなぁー」
 ジョナサンは手で泡立てる用の、軽くて小さなそれを持ち出した。手動の泡立て器は、ジョナサンにも持てる。だが電動の泡立て器より、ずっとたくさん回す必要があるのだ。大人でも時間がかかるのに、なんせジョナサンは5才だ。生クリームにツノが立つ状態になるのに、何時間もかかってしまった。気づけば明るかったあたりは、すっかり暗くなっている。
「うわ。もう晩ご飯の時間だ!」
 時計を見れば、7時だった。でもまだケーキは、できていない。ジョナサンは慌てて、生クリームをスポンジに塗り始めた。少しずつ塗っていくうえ、失敗する度やり直すから、ここでも時間がかかった。ようやく仕上げのいちごをのせたときには、ジョナサンは大きなため息をついた。
「ああ、疲れた。それにいつもならもう、寝ている時間だ」
 9時を何十分も過ぎてしまった時計は、ジョナサンには読むことができない。ジョナサンは完成したケーキを皿にのせ、ヨタヨタと大広間に移動した。
「見て見てっ! これ、僕が作ったケーキなんだよっ!」
 大きな声でスーツの人たちに、ジョナサンは話しかける。しかしみんな、つらそうな顔でジョナサンを見るだけだった。
「あれ、どうしてみんな、そんなに悲しそうなの? 甘いものを食べたら、笑顔になれるよっ!」
 ジョナサンは父親の前へと行き、フォークを差し出した。父親は一口ショートケーキを食べ、笑った。
「おいしいな。ありがとう、ジョナサン」
 笑っているのに泣いているなんて、大人はすごいことができるんだなと、ジョナサンは思った。
作品名:ジョナサンの長い一日 作家名:吉村ユエ