ゼロ
忘れる
死んだ人々の霊が
自然の事物に宿るように
僕に忘れられたものたちは
自然の事物となるのかもしれない
僕が忘れてしまった
初めてプールに入ったときの記憶は
山道の苔となって
ひっそりと生き続けているのかもしれない
真っ青な細いひもを
結んだりほどいたりしている
結ぶ途中でできる
ひもの輪で囲まれた小さな領域に
何かを忘れてきたような気がして
でもやっぱり何もないように思えて
固く結んでしまう
でもやっぱり何かあるように思えて
またほどいて結び始め
小さな輪を作る
人とすれ違ったあと
僕はその人に速やかに忘れられる
その人は勝手に下り坂を作り
僕を転がし落としていくのだ
少し遠くに離れてしまったその人を振り返り
僕は叫びたくなる
僕とあなたは
同じ平らな道の上にいるじゃないか
なんでそんなに坂を作りたがるんだ
しかし僕もまたその人を
すでに下り坂の上に置いていた