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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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マ界少年ユーリ!

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第2話 ドリームにゃんこ in 夢(む)フフ9


 ふかふかのベッドで眠るユーリを呼ぶ優しい声。
「ボクの愛しいユーリ、早く目を覚まして……」
 ユーリのおでこに触れたやわらかい唇の感触。
 ゆっくりと目を開けたユーリは、いきなり鼻血ブー!
 噴射した鼻血はすっぽんぽんの男に掛かった。
「お、おにいたん!」
 ユーリは慌てて両手で目を塞いだ。
「おにいたん、どうして裸なの? お風邪引いちゃうよ(……あれ、なんか可笑しい)」
 なにかが可笑しいことにユーリは気づいた。
 いきなり裸族の兄が仁王立ちしているのも可笑しいが、そこじゃなくて……なにか重要なことがあったような気が……。
「(あ、どうしてアタシお兄様のことおにいたんって呼んでるんだろう。そうだ、これっていつもの夢なんだ)」
 でも、なにかもっと重要な何かを忘れているような気がした。
 恥ずかしそうにユーリは指の隙間からアーヤお兄様のことを覗いた。
 いつも夢に出てくるアーヤと変わらない。いつもと同じ?のっぺらぼう?。今日はすっぽんぽんの大サービスだ。
「おにいたん、早くお洋服着てちょーらい。恥ずかしいよぉ」
「いつも一緒にお風呂で洗いっこしてるのだから、別に今さら気にすることはないよ。ボクらには愛があるじゃないか!」
 アーヤと一緒に入っていた記憶が甦りユーリちゃん鼻血ブー!
 このまま出血多量で萌え殺される。
「おにいたん……お願いだからお洋服を着てちょーらい……(殺害される……実の兄に欲情して死んだら、恥ずかしくてさらに死ねる)」
「しょーがないなぁ。可愛いユーリのお願いじゃしょうがないか」
 ため息を落としながらアーヤはしぶしぶ気替えはじめた。
 そして、気替え終わったアーヤが男らしく仁王立ち――赤いふんどしが風に靡いた。
「ブハッ!」
 またまた鼻血ブーのユーリちゃん。
「ゲホッ……ゲホゲホッ(な、なんでお兄様……赤フンなの)」
 鼻血が出すぎて口に入って吐血状態になってしまった。
「大丈夫かいユーリ!」
 すぐにアーヤが駆け寄ってくる――赤フンを揺らしながら。
「おにいたん来ないで!(これ以上近づかれたらまた鼻血で死ねる)」
「えっ……どうしてだいユーリ……ま、まさかボクのこと大ッ嫌いになったのかい? ショックだ!」
 勝手な思い込みでアーヤは沈んだ。床に両手両足を付いてマジでへこんでいる。
「ち、違うよおにいたん! おにいたんのこと好きだから、その格好で近づかれると……ドキドキしちゃうの(さすがに萌え死ぬからやめてとは言えなかった)」
 絶望状態だったアーヤに生きる希望が湧いた。
「愛してるよユーリ!」
 笑顔大爆発でアーヤはユーリに飛び掛った。
 アーヤのハグハグ攻撃で、ユーリの顔は殿方の胸板にグリグリされた。
 鼻血ブー!
 ユーリの白い肌を彩った血の華。
 その瞬間、ユーリは世界が膨らんだような気がした。部屋の壁などが、ほんの一瞬だけ膨張したような気がしたのだ。
「今……(なにがあったんだろう?)」
「どうしたんだいユーリ?」
「ううん、なんでもないの。おにいたんとずっとこうしてたい……おにいたんどこにも行かないよねぇ?」
「もちろんだよ、なにがあろうとボクはユーリの傍にいるよ」
「お約束だよ?」
「うん、約束するよ」
 二人は小指と小指を強く絡め、指切りげんまんをした。
「お約束を破ったらユーリをおにいたんのお嫁さんにするんだお!」
「うんうん、わかったよ」
 のっぺらぼうの顔なのに、なぜか兄が満面の笑みを浮かべているような気がした。
 瞳を瞑ったユーリは心の中で泣いた。
「(でも……お兄様は消えてしまった……現実の世界では……このままずっと夢が覚めなければいいのに)」
 世界が一瞬だけ膨張して戻った。
 ユーリの心を揺さぶる不安。
 そんなユーリをアーヤは心配そうに覗き込んでいた。
「本当に大丈夫かいユーリ?」
「うん、ぜんぜんへーきだよ! ユーリはいつも元気だもん♪」
「あはは、うん、ユーリはいつも元気だもんね」
 アーヤはユーリの頭を優しく撫でた。
 優しい温もり。髪の毛を通して暖かいアーヤの体温が伝わってくる。
 急にアーヤは『あっ』と声を漏らした。
「そうだ、いい子のユーリにプレゼントがあるんだった」
「なぁに?」
「ちょっと待ってて」
 アーヤはユーリに背を向けてなにやら大きな箱のフタを開けているようだった。
 赤フンがケツに食い込んでTバックになってますよ!
 鼻血ブー!
 もうユーリは瀕死だった。
 アーヤは可愛らしい服をユーリに見せた。
「可愛いだろう? 有名な仕立て屋にボクが描いたデザインで作ってもらったんだ。ほら、ここのフリルとか萌えるよね」
「おにいたん、それちょっとスカートが短い……」
「いいから、いいから、早くボクに着て見せてよ」
「うん♪」
 ベッドから降りたユーリは服を気替えはじめた。アーヤはじーっと気替えを見ている。
「おにいたん、あっち向いてて!」
「生着替えの過程も大事なのに……着替え終わったら声をかけてね」
 アーヤは両目がある部分を手で隠した。指の隙間がちょっぴり開いているのは仕様だ。
 パジャマを脱ぎ捨ててユーリはパッと着替えを済ませた。
 だが――。
「(やっぱりこれってスカートが……)お、おにいたん……き、着替えたけどぉ」
「カ、カワイイ! この世で一番カワイイよ、やっぱりユーリは何を着させても似合うよね。あとは魔法ステッキを持ったら、完璧な魔法少女プリティユーリに大変身だね!」
「お、おにいたん……おぱんつ見てるのは恥ずかしいよぉ」
 スカートが短すぎてパンティーが半分以上丸見えだった。
「大丈夫、それは某海藻ちゃん仕様だから!」
 仕様ならしょーがないか♪
 アーヤは手に持っていたユリの花をユーリの髪に挿した。
「さっき摘んで来たんだ、ユーリに似合うと思ってね」
「おにいたんありがとぉ」
「嗚呼、生きていてよかった」
「でも……」
「でも?」
 急にユーリは不安そうな顔をした。
「でも、こんな格好をしてると……またお母様に叩かれるよぉ。お母様もお父様も、シィ兄様も、みんなユーリのこと大ッ嫌いなんだもん」
「大丈夫だよ、もうみんないないんだから」
「みんないない?」
「そうだよ、ボクたちは駆け落ちして家を飛び出したんじゃないか!」
「……えっ?」
 駆け落ちってあの駆け落ち?
 男女が結婚や交際を反対されて逃避行するアレ?
 唖然とするユーリをアーヤが優しく抱きしめて囁く。
「もうずっと一緒だよ」
「駆け落ちって……ユーリとおにいたんが?」
「そうだよ、駆け落ちして結婚して、今はハネムーンの最中じゃないか。昨日の夜だってボクらはあんなに愛し合ったのに……激しすぎて覚えてないのかい?」
 悪戯っぽくアーヤは言った。
 鼻血ブー!
「ユーリとおにいたんが燃えるような激しい男女の……(ありえない、それはありえないけど、もしもそんなことが……いや、ない。アタシに女装を仕込んだのはお兄様だけど、お兄様がアタシにそーゆー関係を迫ってきたことはないし、一線を越えるなんて……だって血の繋がった兄弟だよ)」
 でも、鼻血ブー!
 取り乱したユーリの頭の中はピンク一色に染まった。
 世界が揺れる。
 激しく世界が膨張する。