呼べなくなった名前
その投稿を見つけたのは、
夜、家族が寝静まったあとの静かな時間だった。
何気なく開いた画面で、
たった一行に、指が止まる。
「その名前、もう呼べない人になった?」
胸の奥が、ゆっくりと締まる。
数年ぶりに、偶然再会した日のことを思い出す。
駅のホーム。
人混みの中で、目が合った。
一瞬でわかった。
時間なんて、なかったみたいに。
「久しぶり」
それだけしか言えなかった。
本当は、聞きたいことも、
伝えたいことも、いくつもあったのに。
左手の指輪が、すべてを止めた。
お互い、少し笑って、
少しだけ距離を取って、
「元気でね」と言って別れた。
それが、今の自分たちに許された
ちょうどいい距離だった。
あの日の夜、
久しぶりに名前を打った。
「ゆうたへ」
そこから先は、あの頃と同じだった。
ごめんも、好きも、
あのとき言えなかった全部も、
ちゃんと書いた。
でも、送れなかった。
今さら届いてはいけない言葉になってしまったから。
画面を閉じるとき、
そっと消そうとしたけど、できなかった。
あの名前まで消してしまったら、
本当に終わってしまう気がして。
今はもう、連絡先も開かない。
開けない。
でも、ときどき思い出す。
あのホームで、
ほんの少しだけ戻りかけた時間のことを。
いいねを押したのは、
共感したからじゃない。
もう届かないとわかっている想いに、
せめてどこかで、存在していてほしかったからだ。
バズるって、たぶん
新しい出会いのことじゃない。
もう触れてはいけない名前に、
心が触れてしまうことだ。
作品名:呼べなくなった名前 作家名:タカーシャン・ソレイユ



