「言葉の海を渡る人」
古い町の小さな図書館。
そこには、まだ誰にも読まれていない無数の物語が眠っていた。
壁いっぱいの棚には、タイトルではなく言葉が貼られている。
恋愛、オリジナル、ファンタジー、短編、現代、詩。
青春、夢、家族、友情、日常、猫、結婚、創作。
愛、人生、未来、心、希望、記憶、命。
ある夜、一人の青年がそこに迷い込んだ。
彼は長い間、孤独だった。
仕事に追われ、日常に流され、
恋も、友情も、夢さえも、どこか遠くへ置き忘れていた。
棚の前に立つと、言葉が風のように揺れた。
高校生。
大学生。
出会い。
別れ。
純愛。
失恋。
夫婦。
再婚。
家族の絆。
まるで、人間の一生がそこに並んでいるようだった。
さらに奥へ進むと、別の棚が現れる。
戦争、歴史、冒険、魔法、天使、悪魔、神。
宇宙、未来、ロボット、アンドロイド、タイムスリップ。
怪奇、幽霊、妖怪、都市伝説。
青年は小さく笑った。
「人生って、ジャンル分けできないのに。」
その時、天井から無数の言葉が雪のように降ってきた。
涙。
桜。
夏。
雪。
雨。
夜。
空。
星。
海。
そして、少し重たい言葉も混じっていた。
孤独。
裏切り。
嫉妬。
絶望。
病気。
事故。
別れ。
死。
青年はしばらく立ち尽くした。
だがその中に、確かに光る言葉があった。
希望。
再会。
感動。
優しさ。
成長。
感謝。
図書館の奥から、年老いた司書が現れた。
「その言葉たちはね、全部、誰かの人生なんだよ。」
青年は尋ねた。
「じゃあ、僕の物語はどこに?」
司書は微笑んだ。
「まだ書かれていない棚さ。」
青年は振り返る。
そこには白い壁があった。
何も書かれていない。
しかし、近づくと、かすかな文字が浮かび上がった。
出会い。
旅。
挑戦。
愛。
希望。
青年は気づいた。
人生とは、
すでにある物語を読むことではなく、
言葉を選びながら書いていくことなのだと。
外に出ると、夜空には星が広がっていた。
宇宙のように無数の物語が、
今この瞬間も生まれている。
青年は歩き出した。
恋愛でもいい。
友情でもいい。
失敗でもいい。
どんな言葉でもいい。
ただ一つだけ、決めた。
最後のページには、
必ずこの言葉を書くと。
「希望」。
作品名:「言葉の海を渡る人」 作家名:タカーシャン・ソレイユ



