飴玉一粒から始まる「清流」
〈掌(てのひら)の上の小宇宙 〉
仕事の合間や、喉の乾燥が気になるとき。私たちは何気なく一粒の飴を口に放り込みます。口の中で転がるその小さな塊が、実は体内の「壮大な環境保全活動」のスイッチを入れていることに、気づいている人は多くありません。
飴を舐め始めると、口の中には驚くほどの潤いが満ちてきます。通常、1分間に0.3mlほどしか湧き出さない唾液が、飴の刺激によって瞬時に10倍近くまで増大するのです。10分も舐めていれば、その量は小さな瓶一本分にも及びます。
この「湧き水」の正体を知れば、誰もが自分の体を尊く感じるはずです。
血液から生まれる「天然の薬」
唾液の原料は、私たちの体を巡る血液です。唾液腺という高度な浄水施設において、血液は精密に濾過され、赤血球などの成分が取り除かれます。しかし、ただ漉(こ)すだけではありません。そこに「ムチン」という粘膜の保護剤や、「リゾチーム」という天然の抗菌薬、さらには「IgA」という免疫のガードマンが絶妙な配合で添加されます。
こうして作られた「黄金の液体」は、口という最前線の門を守るために出荷されます。まさに、自分の血液を加工して、自分を守るための「特注の薬」を作り上げているのです。
地球と同じ、淀みなき循環
さらに驚くべきは、その「リサイクルシステム」です。役目を終えた唾液は飲み込まれ、胃を通り、腸で再び吸収されて血液へと還ります。
血液 → 唾液 → 消化管 → 血液
このループは、地球上で水が海から雲へ、雨から川へと巡るサイクルと全く同じ構造をしています。自然界で流れが止まった水が濁るように、私たちの体も循環が滞れば、途端に不調をきたします。水分不足や口呼吸によって「体内環境の干ばつ」が起きると、せっかくの天然の薬も枯れてしまうのです。
今日から始める「環境保全」
もし、この循環を「自分という自然を守る活動」だと捉え直してみたらどうでしょうか。
• 一口30回噛むことは、水源のポンプを力強く動かすこと。
• こまめに水を飲むことは、川の流量を保ち、淀みをなくすこと。
• 鼻で息をすることは、せっかくの湧き水を蒸発から守ること。
飴を一粒舐める。そのとき口の中に広がる潤いは、あなたの体が懸命に濾過し、精製した「生命の雫」です。その一滴一滴が、あなたの健康という豊かな森を育んでいます。
次に飴を口にするときは、ぜひその豊かな「清流」を感じてみてください。あなたの体の中で、今日も美しい循環が守られていることを。
作品名:飴玉一粒から始まる「清流」 作家名:タカーシャン



