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タカーシャン
タカーシャン
novelistID. 70952
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食卓に押し寄せる静かな略奪

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食卓に押し寄せる静かな略奪〜失われる「最後の砦」

スーパーの入り口で、私たちはかつて経験したことのない「ため息」をつくようになった。
政府の発表する物価指数は、わずか数パーセントの上昇を告げ、事態は沈静化に向かっていると説く。しかし、毎日スーパーの奥深く、最安値の棚を知り尽くしてきた者たちの感覚は、それとは全く違う。「安いものから順に消えていく」という、生存に直結する恐怖に直面しているのだ。

かつて、私たちの暮らしには「最後の砦」があった。
どれほど生活が苦しくても、五キロ一千五百円以下の米があり、百円以下の卵があり、数十円の豆腐があった。それらを組み合わせれば、なんとか今日を繋ぐことができた。しかし、今やその地図は塗り替えられた。

庶民の命を支えてきた米は、二倍、三倍という暴力的な価格に跳ね上がった。かつての特売品は姿を消し、ようやく見つけた「安いもの」ですら、数年前の二倍の値段がついている。統計上の「数パーセント」という数字は、もともと高いものを買える層の平均に過ぎない。底辺の安値を頼りにしてきた人々にとって、起きたことは「緩やかな上昇」ではなく、「生活基盤の崩壊」である。

三割、四割という値上げは、単なる家計の数字の変動ではない。それは、夕食の品数が一品減り、子供に「おかわり」を躊躇させ、栄養よりも「空腹を満たすこと」を優先せざるを得ない、生活の質の削ぎ落としを意味する。

「高いなら、安いものに変えればいい」
そんな言葉が通用した時代は終わった。今、起きているのは「代替品の消滅」だ。肉を諦めて選んだ卵が、卵を諦めて選んだ豆腐が、その豆腐ですら値上げの波に飲み込まれている。工夫や努力という言葉が、もはや無力に響くほどの速度で、私たちの食卓は浸食されている。

スーパーの棚を見つめる人々の背中は、以前よりも小さく見える。
カゴの中身を一つ、また一つと棚に戻すとき、私たちが失っているのは金銭だけではない。明日への安心感と、この国で普通に暮らしていくことへの信頼そのものを、少しずつ手放しているのではないだろうか。

飽食の時代の影で、静かに、しかし確実に広がっているこの「食の断絶」。
今、必要なのは華やかな経済指標の報告ではなく、冷え切った買い物カゴの中にある、むき出しの現実に寄り添う眼差しである。

追記
「年間にして二十万円。それが、私たちがただ呼吸をし、今日を繋ぐために支払わなければならない『追加の通行料』だ。増えることのない賃金のなかで、この重みは静かに、しかし確実に、庶民の明日を押し潰している。」