見えないものが、いちばん重い
私たちの体を、今この瞬間も無数の宇宙物質が通り抜けている。
宇宙線、ニュートリノ、光。
そう聞くと、どれが一番影響を与えているのかと考えたくなる。
直感的には、体に当たるもの、細胞を揺らすものが強そうだ。
だが、突き詰めていくと答えは逆転する。
最も影響を及ぼしているのは、暗黒物質だ。
暗黒物質は、体に触れない。
細胞も、神経も、DNAも反応しない。
存在しているのに、何も起こらない。
まるで「ない」かのようだ。
しかし、その「何もしなさ」が、実はすべてを決めている。
銀河が形を保てるのは、暗黒物質の重力があるからだ。
太陽が銀河の外へ飛び出さず、
地球が安定した軌道を保ち、
生命が何十億年も育つ時間を持てたのも、
すべて暗黒物質が作った舞台の上での出来事だ。
宇宙線は、役者の一瞬の動きに似ている。
光は、照明や言葉のようなものだ。
だが暗黒物質は、劇場そのものだ。
誰も気づかず、誰も見ていないのに、
それがなければ、物語は始まらない。
私たちは「感じる影響」ばかりを重要だと思いがちだ。
痛み、刺激、変化。
しかし本当に重いのは、
感じる前に、すでに決まっている条件なのかもしれない。
空気。
時代。
常識。
無意識。
それらもまた、暗黒物質と同じだ。
触れない。
見えない。
だが、すべてを縛っている。
暗黒物質は、体を通り抜けながら、体には触れない。
だが、存在そのものには、深く触れている。
見えないものほど、
静かなものほど、
影響は大きい。
宇宙も、人間も、社会も、
本当に支配しているのは、
いつも「そこにあることすら忘れられているもの」なのだ。
作品名:見えないものが、いちばん重い 作家名:タカーシャン



