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タカーシャン
タカーシャン
novelistID. 70952
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磨けなくなった文明

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磨けなくなった文明

現代文明は、驚くほど精密にできている。
スマートフォン、車、医療機器、通信網――
それらはすべて、目に見えないほどの精度の上に成立している。

だが、その精度を支えているものが何かを、私たちはほとんど知らない。

それが「研磨」である。

研磨とは、単に表面をきれいにする作業ではない。
設計図と現実の間に必ず生じる誤差を、最後に引き受ける工程だ。
削る、切る、成形する――
それらは理屈でできる。計算で進められる。

しかし、最後の数ミクロン、数ナノメートルは理屈では整わない。
そこを整えるのが研磨であり、磨くという行為だ。

半導体のシリコンウエハーは、鏡のような平坦さが求められる。
わずかな凹凸があれば、回路は成立しない。
エンジンのピストンやベアリングも同じだ。
磨かれていなければ、摩擦と熱で瞬時に壊れる。

光ファイバーの端面、レンズの曲面、医療用のメスや注射針。
研磨が止まれば、通信は乱れ、映像は歪み、医療は痛みを伴う。

つまり、研磨ができなくなった瞬間、
文明は機能を失う。

これは大げさな話ではない。
研磨にはレアアース、特にセリウムなどが不可欠だ。
その供給が止まるということは、
文明の「仕上げ工程」が断たれるという意味を持つ。

設計図はあっても、完成しない。
部品はあっても、噛み合わない。
動かそうとした瞬間に、焼き付く。

ここで気づかされる。
これは技術の話であると同時に、人間社会の話だということに。

現代社会は、削ることには長けている。
効率化、合理化、データ化、最適化。
正論を並べ、制度を作り、数字で管理する。

だが、磨くことを軽視してきた。

人と人の間に生じる誤差。
制度と現場のズレ。
正しさと感情の隙間。

それらを整える「研磨思想」が、後回しにされてきた。

その結果、社会はどうなったか。
ルールは正しいのに、現場が壊れる。
組織は整っているのに、人が疲弊する。
言葉は正論なのに、誰も救われない。

これは、研磨を省いた機械が焼き付く現象と、まったく同じだ。

研磨とは、誤差を否定しない行為である。
完璧でない現実を受け入れ、
それでも動くように整えることだ。

文明は、削るだけでは成立しない。
人間社会も、正しさだけでは回らない。

磨くという思想を失ったとき、
文明は一見スマートな「鉄の塊」になる。
触れれば冷たく、動かせば壊れる。

レアアース規制は、単なる資源問題ではない。
それは、仕上げを軽んじてきた文明への警告なのだ。

私たちは今、問われている。
どこまで削り、どこから磨くのか。
効率の先に、人を置けるのか。

研磨が消えた世界は、
技術だけでなく、思想の精度も失った世界である。

文明は、磨けなくなった瞬間から、静かに後退を始める。