過去とは何か
もうない。
戻れない。
子供たちとの出来事を思い出すと、
胸の奥に、言葉にならない感情が立ち上がる。
悲しいとも違う。
後悔とも言い切れない。
ただ、切ない。
あの頃は、毎日が慌ただしく、
必死で、余裕などなかった。
今日を回すことで精一杯で、
その時間がどれほど尊いものかを、
深く感じる暇はなかった。
過ぎ去って初めて、
あれが二度と戻らない時間だったと知る。
過去とは、
もう存在しない時間ではない。
アルバムの中に閉じ込められた記録でもない。
過去は、
静かに、確実に、
今の自分の中に入り込んでいる。
子供たちと過ごした時間は、
声の出し方になり、
誰かを見守る距離感になり、
言葉を飲み込む沈黙になった。
もう同じことはできない。
同じ背丈で抱き上げることも、
同じ声で名前を呼ぶこともない。
だから切ない。
それは、愛が本物だった証だ。
過去を思い出して苦しくなるのは、
失ったからではない。
大切だったと、今の自分が知ってしまったから。
過去は終わったものではない。
置き去りにされた時間でもない。
過去とは、
引き受けた時間だ。
戻れないからこそ、
その重みは、
今を生きる背骨になる。
過去があるから、
今の自分は、
立っていられる。
切なさは、
弱さではない。
生きてきた証だ。



