玄関から、家がひとつになる
ある日、玄関に小さなヒーターを置いた。
そして、すべての部屋のドアを開けた。
それだけのことだった。
しばらくすると、不思議なことが起きた。
一階だけでなく、二階の部屋まで、家全体がじんわりと暖かくなっていたのだ。
「え、全部暖かい…?」
特別に強い暖房を使ったわけでもない。
むしろ、いつもより控えめだ。
なのに、体は確かに楽だった。
暖かさは「温度」ではなく「差」で決まる
この体験で気づいたのは、
人は絶対的な温度よりも、寒暖差に疲れるということだ。
玄関は寒く、廊下も冷え、部屋ごとに温度が違う。
その中を行き来するたび、体は小さなショックを受け続けている。
・玄関でヒヤッ
・トイレでゾクッ
・廊下でまた冷える
この繰り返しが、知らないうちに体力を削っている。
ところが、家全体の温度差が小さくなると、
体は驚くほど力を抜き始める。
「暖かい」よりも先に、
「楽だ」と感じる。
体感温度は、心にも効く
寒暖差がなくなると、
血圧は急に上下しにくくなり、
肩や首の力も抜けてくる。
それだけではない。
気持ちが、静かになる。
寒さは、人を無意識に守りの姿勢にさせる。
体を縮こまらせ、心も硬くする。
温度差がなくなると、
家の中でずっと「同じ自分」でいられる。
これは、健康という言葉では足りない、
暮らしの安定感だと思う。
たくさん使わなくても、暖かくできる
面白いのは、
この方法が省エネでもあることだ。
一部屋ずつ強く暖めるのではなく、
一番冷える場所から、空気の流れを整える。
すると、家全体がゆっくり呼吸するように暖まる。
「たくさん使う」より
「うまく流す」
これは暖房の話でありながら、
生き方の話にも似ている。
家も、人も、ひとつの空間
ドアを閉め、区切り、
個別に対処しようとすると、エネルギーは余計にかかる。
つなげて、流して、均す。
すると、全体が自然に整っていく。
玄関のヒーターは、
ただの暖房器具ではなかった。
家がひとつになる体験であり、
体と心が同じ温度に戻る体験だった。
おわりに
暖かさとは、
強さではなく、やさしさの総量なのかもしれない。
寒暖差をなくすことは、
無理をなくすこと。
この冬、
暖房を足す前に、
まず「流れ」を整えてみたい。
玄関から、暮らしは変えられる。
作品名:玄関から、家がひとつになる 作家名:タカーシャン



