本当の還暦は、いま何歳なのか
還暦と聞くと、いまでも多くの人が「60歳」を思い浮かべる。
赤いちゃんちゃんこ、一区切り、長い人生お疲れさま。
しかし、ふと立ち止まって考えると、どうも実感が合わない。
60歳になっても、まだ元気だ。
体も動く、頭も回る、やりたいことも山ほどある。
「人生の終盤」と言われても、まるでピンとこない。
それもそのはずだ。
還暦が生まれた時代、人の平均寿命は30〜40歳ほどだった。
その時代の60歳は、まさに人生の大団円。
生き切った者だけが辿り着ける、特別な年齢だった。
だが、いまは違う。
日本人の平均寿命は85歳前後。
健康に動ける期間も75歳近くまで伸びている。
人生の長さがほぼ倍になったのに、
区切りの年齢だけが昔のまま据え置かれている。
ここに、私たちの違和感の正体がある。
昔の60歳が、人生の8〜9割地点だったとするなら、
いま同じ位置にくるのは、およそ75歳前後だ。
体感的にも、社会的にも、
「本当の還暦」はすでに15年ほど後ろへずれている。
考えてみれば、社会もそれを認め始めている。
定年は延び、70歳現役も珍しくない。
60代で起業し、学び直し、創作を始める人も増えた。
それでも私たちは、
「もう60だから」
「いい歳だから」
と、自分にブレーキをかけてしまう。
だがそれは、
人生の地図を、昔の縮尺のまま使っているようなものだ。
いまの60歳は、終点ではない。
区切りですらない。
ようやく肩の力が抜け、
自分のために生きる準備が整った年齢だ。
還暦とは、本来「暦が一巡し、原点に戻る」こと。
ならば現代の60歳は、
終わりに戻るのではなく、初心に戻る年なのだ。
本当の意味で人生を振り返り、
静かに幕を下ろす年齢は、まだ先にある。
だから、焦らなくていい。
赤いちゃんちゃんこを着せられて、
自分まで老け込む必要はない。
本当の還暦は、もう少し未来にある。
いまはまだ、助走の途中だ。
作品名:本当の還暦は、いま何歳なのか 作家名:タカーシャン



