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タカーシャン
タカーシャン
novelistID. 70952
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半袖の兆し

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半袖の兆し

気温三度。
霰が降っていた。

息を吸うだけで肺の奥が冷えるような朝に、
半袖のTシャツで歩く青年がいた。
当たり前の顔をして、堂々と。

思わず振り返った。
一度では足りず、何度も。

痩せてはいる。
しかし背中は丸まらず、歩幅も乱れない。
寒さに逆らっているようでもなく、
誇示しているようでもない。
ただ、前へ進んでいた。

逞しいのか。
それとも無理をしているのか。
あるいは、この世の人ではないのか。
そんな馬鹿げた考えが、ふと頭をよぎるほど、
その姿は現実と少しずれて見えた。

心配になったのは、
非常識だと思ったからではない。
珍しかったからでもない。
体が先に反応したのだと思う。

人は、本当に危ういものを見るとき、
理屈より先に体が立ち止まる。
目が離れず、もう一度確認してしまう。
それは助けたい気持ちと、
現実を受け入れる距離感がせめぎ合う瞬間だ。

若さは、ときに寒さを感じさせない。
いや、感じていても進ませる。
守ることも、整えることも後回しにして、
まず歩くことを選ぶ力がある。

その力が、
壊れやすさと紙一重であることも、
私はもう知っている。

だからこそ、
あの背中をただの無謀として
切り捨てることができなかった。

もしあれが現実なら。
もし彼が、無理ではなく、意志で歩いていたのなら。

未来は、少し頼もしくなる。

寒さの中を、
言い訳も弁明もせずに歩く存在が、
まだこの世界にいるのだとしたら。

私はそう信じる側を、
今日も選びたい。
作品名:半袖の兆し 作家名:タカーシャン