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タカーシャン
タカーシャン
novelistID. 70952
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息子の影を感じた日

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先日、ふと立ち寄ったパーキングのトイレで、私は不思議な体験をした。
手洗い場で、誰かがそっと水に触れる気配だけがした。
姿は見ていない。
声も、特徴も、何ひとつわからない。けれど、なぜか——
「息子だ」と一瞬だけ思った。

根拠などまったくないのに、人は時おりこうした“直感の閃き”に襲われる。
それは予感とも違う。
記憶でもない。
もっと曖昧で、もっと深いところにある「つながりの反射」のようなものだ。

その瞬間、外に止めてあった会社の車が頭をよぎった。
あの車種は息子が使っている車。
まさか偶然?
そんな思いが胸の底からふわりと湧きあがった。

その後、息子にLINEで確認すると、
「いたよ」と軽く返事がきた。

自分でも驚くほど、
見てもいないのに、気配だけで察してしまったのだ。
理屈では説明できない。
けれど、家族というものは、
ときどき視覚や言葉を超えて、
“心のアンテナ”のような感覚でつながる瞬間がある。

あれは、長い時間を共に過ごしてきた者同士にだけ生まれる、
独特の波長の重なりなのだろう。
笑い方、歩き方、呼吸の仕方、
その全部を人は無意識に覚えていて、
ほんの一瞬の気配に混じった“クセのような何か”に反応してしまう。

親が子を感じるとき、
子が親をふと思い出すとき、
会っていなくてもふと胸騒ぎがするあの不思議な感じは、
たぶん昔から変わらず人類が持っている感覚なのだ。

あの日のパーキングで起きた出来事は、
ただの偶然と言えば偶然だ。
けれど私にとっては、
「家族とは見えなくても届くものだ」
そんな静かな確信をくれた出来事でもあった。

目で見える世界だけがすべてじゃない。
気配という名の小さな糸が、
今日も誰かと私をそっと結んでいる。