小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
タカーシャン
タカーシャン
novelistID. 70952
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

バランスの哲学

INDEX|1ページ/1ページ|

 
人はいつも、“どちらか” に傾きすぎてしまう。
お金も、健康も、恋愛も、仕事も。
なぜか人生は、プラスばかりを追いかけるようにできている。
でも、いつも不思議に思うのだ。
本当に心地よい時間というのは、プラスが溢れた時ではなく
プラスとマイナスが静かに釣り合っている時だ、と。

たとえば、お金。
手元にたくさんあれば安心する。
だけど、不思議なもので多すぎると心が重くなる。
守らなければというプレッシャー、失う恐怖、期待される不安。
逆に、お金が足りない時は確かに苦しい。
でも、ちょっと足りないぐらいの時、人は知恵が湧き、工夫を覚え、
無駄を捨てて「ほんとうに大事なもの」が見えてくる。

お金がありすぎても苦しい、なさすぎても苦しい。
その中間、
「まあ、このくらいでいいか」と笑える地点。
そこに、妙なる軽さがある。

健康も同じだ。
元気いっぱいの時、人はつい無理をする。
絶好調の時ほど、油断する。
逆に体調を崩すと、日々の呼吸や水の味、
何気ない日のありがたさが胸に沁みる。

つまり、健康とは、“完璧なプラス” である必要はなくて、
すこし物足りないくらいが、
人の心を静かにする。

恋愛だって、そうだ。
好きが強すぎれば、相手を縛りつけてしまう。
不安が強すぎれば、自分が苦しくなる。
距離が近すぎれば見えなくなり、
距離が遠すぎれば離れていく。

あの絶妙な間合い
近すぎず、遠すぎず、
風がちょうどよく通るあの距離。
あれが、一番心を熱くし、一番心を軽くする。

仕事もそうだ。
やりすぎれば心身を壊すし、
やらなすぎれば自己肯定感が削れる。
ギュッと働いて、スッと休む。
集中する日と抜ける日。
高い目標と、日常のゆるさ。

この「ギュッ」と「スッ」の間に、
人生のリズムが整う。



最近、つくづく思う。
人生の豊かさは「プラス」を積むことではなく、
プラスとマイナスの配置を整えることなんだ、と。

調子がよければ、あえて休む。
落ち込んでいれば、少しだけ動く。
お金が増えれば、心を軽くするために手放す。
孤独を感じれば、誰かに軽く声をかけてみる。
忙しすぎれば、空白の時間をつくる。

うまくいけばいくほど、
「少しマイナスを入れておく」ことが、不思議と大切になる。

その均衡の場所に立つと
人生が急にたのしくなる。
気持ちがフラットになり、体が軽くなり、
他人がうらやましくなくなり、
自分の歩幅が見えてくる。

プラスでも、マイナスでもなく、
その真ん中に立ったとき、人は一番強く、一番自由になる。

たぶん、人生の喜びとは、
「すべてがうまくいく瞬間」ではなくて、
「うまくいっていないものと、いっているものが同時にある状態」を
受け入れられた瞬間に生まれるのだと思う。

晴れと曇りの間にある光、
夏と冬の間にある秋風、
喜びと涙の間にある静けさ。

人生の美しさは、
いつも “間” に宿る。

そして私は今日も、
胸のどこかでこうつぶやく。

「ちょうどいいって、なんて贅沢だろう」 と。
作品名:バランスの哲学 作家名:タカーシャン