疲れ大国、日本
あらゆる場所で
人が眠っている。
駅のベンチで、
電車の揺れのなかで、
カフェの片隅で、
会議室の後ろで。
学生も、
社会人も、
主婦も、
老人も。
まるで国中に
小さな沈黙の島が
点々と浮かんでいるようだ。
異国から来た旅人たちは
その光景を
珍しそうに眺める。
「なぜ、こんなに皆、
どこでも眠ってしまうのか」
と、不思議そうに。
でも私たちは知っている。
これは怠惰ではなく、
文化でもなく、
習慣でもなく、
——疲れの総量が
許容量を超えた国の
ひとつの風景だということを。
働きすぎた肩、
気を張りつめたままの心、
休むことを後回しにする癖、
自分より仕事を優先させる生き方。
眠りの姿が
この国の祈りの形に
見えてくる瞬間さえある。
どうか
そこに倒れ込むように眠る誰かが、
ほんの少しでも
救われていますように。
どうか
この国が、
「がんばる」ではなく
「生きる」を基準に
動き始めますように。
そして願う。
疲れ大国日本が、
休める国に
変わる日を。
そんな願いをこめて、
今日もまた、
どこかで誰かが
そっと
目を閉じている。



