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タカーシャン
タカーシャン
novelistID. 70952
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通院という名の避難所

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毎日のように病院へ通う人がいる。
処方される薬は増え、検査項目も増えていく。しかし、彼らが何を治しているのかを丁寧に見つめると、身体の病気だけではないことに気づく。

診察室の短い数分間の会話。
医師に症状を伝えるその合間に、ふと漏れる家族の話、仕事の愚痴、誰にも言えない生活の疲労。そこに、病名にはならないが確実に体を沈ませる“影”が潜んでいる。

病院は本来、身体の不具合を治す場所だ。しかし、多くの人にとっては、もう一つの意味を持っている。弱音を吐ける場所、責任を降ろせる場所、そして誰かに気にかけてもらえる場所。つまり、人生の重さを一時的に預けられる「避難所」なのだ。

家族のために無理をし続ける人。
会社の期待を背負い、気持ちを押し殺して働く人。
孤独の中で、ただ一人で感情を抱えきれなくなった人。
そんな人たちは、身体が不調をつくることで「助けて」と言わざるを得ないところまで来てしまう。

身体は、言葉にできないものを代わりに語り始めることがある。
胸の痛みは言葉にできない悲しみであり、
胃の不調は長年の緊張の痕跡であり、
慢性の疲労は、心がもう限界だと言っているサインかもしれない。

だから頻回の通院は、症状を治すためであると同時に、心の奥のほころびを抱えて立ち寄る行為でもある。医師や看護師とのわずかな対話が、本人にとっては“唯一の安心”になることもある。

通院という行動は、
「まだ大丈夫」と言い聞かせてきた自分が、
「本当は大丈夫じゃない」と認めはじめる入り口でもある。
そこに気づくことは、実は治癒のはじまりだ。

病院を出るとき、人は少しだけ軽くなる。
治っているのは、薬の効き目だけではない。
人生の重さを少しだけ置いてこれたからだ。

私たちが本当に治すべきものは何なのか。
それは「身体」だけでなく、
無理を積み重ねてきた“生き方そのもの”なのかもしれない。