実を上げるには
会議偏重組織が抱える根本課題と、人材育成への転換策
日本の多くの組織では、「会議」「打ち合わせ」「共有」「確認」という名のもとに、膨大な時間が吸い込まれていく。会議は本来、意思決定のための手段であるはずなのに、いつの間にか“会議をすること自体”が目的化し、参加者は「顔を出すこと」に追われている。結果として、実(じつ)を上げるどころか、現場の思考力は時間不足により痩せ細り、人材育成の機会も奪われてしまう。
なぜ会議は増えるのか。理由は単純で、「安心したい」からである。意思決定の責任を分散し、数字の悪化や顧客対応の失敗を“会議で共有したから良しとする”文化が、組織全体に染みついている。上司は「報告があれば安心」、部下は「会議に出ていれば評価される」。この空気の中で、人材育成は自然と後回しにされる。育成には“考える時間”と“試す時間”が不可欠だが、会議まみれの組織ではその両方が奪われてしまう。
では、どうすれば「実を上げる」うえで、「人材を育てる組織」へと転換できるのか。
第一のポイントは、会議の目的を“意思決定中心”へ戻すことである。共有を目的とした会議ほど無益なものはない。共有は資料とチャットで完結させ、会議は「決める」「議論する」ためだけに開く。これだけで会議の総量は半分にまで圧縮される。会議が減ると、参加者は“考える時間”を取り戻す。人材育成とは、実はこの「思考の空白」が生む学びの積み重ねである。
第二に、打席を渡す仕組みを明確にすることだ。いつまでも上司が説明し、上司が判断し、上司が会議を仕切っている限り、若手は育たない。“任せる勇気”が育成の第一歩であり、失敗から学ばせることが最も確実な成長である。もちろん任せるには責任が伴うが、失敗した際に共にリカバリーする文化があれば、恐れずに挑戦できる。ここで重要なのは、「任せる範囲を固定化しない」こと。成長度に応じて打席の幅と深さを変えていくことで、人は着実に力をつけていく。
第三に、“会議の前”に育成ポイントがあることを理解する。会議で発言しない人がいるのは、準備時間がないからだ。日々の業務に追われ、資料を作るだけで精一杯になり、「考える力」が鍛えられない。だからこそ、上司は“問いを渡す”必要がある。
「この案件の核心は何だと思う?」
「三案提案するとしたら?」
このような前段階の対話こそが育成の主戦場だ。人は“問い”によって思考を深め、答えを探す過程で成長していく。その問いを渡せるのは、立場ある者の役割である。
第四に、会議の質は“終わり方”で決まることを忘れてはならない。多くの会議は、曖昧なまま終わる。「次回までの宿題」と称して誰が何をやるのか曖昧にし、結果として行動に移らない。これは育成の最大の敵である。行動が伴わなければ、成果も成長も生まれない。したがって会議の最後には、**“決定事項”と“担当者”と“期限”**を必ず明確にして締めくくる。この3点があるだけで、実行力も育成も劇的に変わる。
最後に、「会議を減らすこと」は目的ではなく、“人の力を最大化するための環境づくり”だということを強調したい。優秀な人材とは、時間の使い方が上手な人である。そして時間の使い方を学べるのは、余白と挑戦がある環境だけだ。会議まみれの組織は、余白を奪い、挑戦の機会も奪う。だからこそ、会議を減らすことは育成の核心に触れている。
実(じつ)を上げるとは、数字だけを追うことではない。人が育ち、人が動き、人が意思決定できる組織へ進化することだ。会議を減らし、打席を渡し、問いを投げ、責任と挑戦を共有する──その循環こそが、人材育成の最も確かな土壌となる。
組織を強くしたいのなら、まずは「人の時間を取り戻す改革」から始める。時間こそ、人材育成における最大の資源なのである。



