人材大国としての中国:数字が告げる現実
間違ってはならない。いま世界が直視すべきは、中国はもはや単なる“経済大国”ではないという事実だ。GDPの伸びが鈍化し、不動産市場が揺らぎ、景気の減速が取り沙汰されている。しかし、その陰で見落としてはならない核心がある。中国は今、圧倒的な「人材大国」へと転換を完了しつつあるという点である。
その象徴が、一流大学出身者の絶対数である。中国の大学進学者数はすでに年間千万人規模に達し、さらに著名大学(清華大学・北京大学など)の修士・博士課程の輩出数は、既に先進国の総量を上回っている。世界のトップレベルの理工系人材やAI研究者を「量」で見ると、日本が年間に輩出する理工系修士・博士の数を、中国は桁違いの規模で上回っている。質だけではなく、圧倒的な“母集団の大きさ”が、科学技術の高速発展を支える基盤になっている。
しかも重要なのは、その人材の多くが、中国国内の研究所や民間企業に滞留しはじめているという事実だ。かつてのように海外流出するのではなく、国内でのキャリア形成が可能になったことで、技術蓄積のスピードは加速した。つまり、中国が世界で最も早く技術を試し、失敗し、修正し、次の成果へ移る「実験回数の優位」を手に入れたのである。
経済成長が鈍化しても、科学技術の革新は止まらない。
これは、中国が“経済大国”によって強いのではなく、「人材のエコシステム」によって強くなったことを意味する。人材の量と質が、国家競争力の主戦場を形づくる時代に突入した。
では、日本はどうか。出生数は激減し、大学院進学者も減り続けている。研究者の待遇や挑戦の機会は細り、若い才能が育ちにくい構造が定着しつつある。「人材の蓄積」こそが次世代の国力である以上、日本が直視すべきは、中国の経済指標ではない。その背後で静かに積み上がる“人材の山”である。
人材を国家戦略の中心に置くかどうか。
その選択が、10年後・20年後の国の姿を決める。
いま中国が示す現実は、日本に対する静かな挑戦状でもある。
作品名:人材大国としての中国:数字が告げる現実 作家名:タカーシャン



