命に別状はない、という言葉の痛み
熊被害、ニュースが淡々と告げる。
「命に別状はないということです」
──まるで、それで安心していいかのように。
けれど、顔を傷つけられた人は、もう同じ顔で笑えない。
世界の見え方も、人のまなざしも、少し違って見えるだろう。
生きていることと、生きていけることは、ちがう。
命に別状はなくても、心に別状が生じる。
暮らしに別状が、未来に別状が。
それでも人は、生きようとする。
「命に別状はない」と言われたその命を、
もう一度、自分の形で生き直そうとする。
言葉は、時に人を救い、時に切り捨てる。
だからこそ、ニュースの一文にも、
人の痛みに寄り添う余白を、残してほしい。
作品名:命に別状はない、という言葉の痛み 作家名:タカーシャン



