「湯気の中のシシ神」――宮崎駿と民俗の生命観
宮崎駿が『もののけ姫』で描いた「シシ神」は、
自然そのものの象徴であり、
生と死を一体として抱く存在だ。
生命を与え、同時に奪いもするその姿は、
日本古来のアニミズム――
すなわち、森羅万象に霊が宿るという感覚の再生である。
この二面性は、日常の「風呂」にも息づいている。
湯は命を癒やし、同時に奪う。
温泉地では湯治の文化が命を長らえさせ、
一方で「風呂死」という言葉も現代社会の影で囁かれる。
人は湯の中で、しばし神の領域に近づくのだ。
柳田國男は『先祖の話』の中で、
「死者の魂は水の彼方へ渡る」と書いた。
湯もまた「水」の変容であり、
生と死をつなぐ媒介なのかもしれない。
宮崎が描いた“シシ神の森”は、スクリーンの中だけではない。
今も私たちの浴室の湯気の中に、
静かに息づいている。
その神は問いかけている――
「お前は今、命を温めているのか、それとも溶かしているのか」と。
作品名:「湯気の中のシシ神」――宮崎駿と民俗の生命観 作家名:タカーシャン