風の中の少年
北風吹き荒ぶ午後、
公園の隅でひとりの少年がしゃがみ込んでいた。
トレーナーを膝まで引き下ろし、
うずくまる小さな背中が震えている。
通り過ぎる大人たちは、
一瞬その姿に目をやり、
すぐにスマホの画面へと視線を戻した。
寒さのせいか、
それとも、見えない何かへの怖さか。
あの少年に、何があったのだろう。
友達と喧嘩したのかもしれない。
先生に叱られたのかもしれない。
あるいは、ただ世界の冷たさに
初めてぶつかっただけなのかもしれない。
けれど、本当の問いは――
「少年に何があったか」ではなく、
「その少年を見つけた大人が、何をしたか」
ではないだろうか。
私たちは、社会の中で
“見えないふり”を覚えすぎた。
「声をかけたら迷惑かもしれない」
「関わると面倒かもしれない」
そんな小さな打算が、
人のぬくもりを削っていく。
北風は、心の冷たさを映す鏡でもある。
あの少年を包む風は、
もしかしたら、私たちが作り出した風だったのかもしれない。