ジコチュースカイパー
彼の一言で、熱中していたアクションゲームでの操作を誤ってしまった。私はむかついて、リトライの文字が表示された画面を放置し、彼とパソコンを通して向き合う。
「死んだじゃん。せっかくいいトコまで行ってたのに」
顔も姿も見えない、声だけの相手。ただそこには、私とは違う人間がたしかに存在している。その見えない相手に、私は文句を言う。このゲームは私のお金で買った私の物で、彼に邪魔をされる筋合いはない。
するとパソコンに繋いだイヤホンから、彼が息を吸う音が聞こえた。
「話さない、聞かないなら、スカイプをしている意味はないだろ」
そう言った彼は、直後に私との通話を終了させた。彼のアカウントを見ると、どうやらログアウトしたらしい。灰色の簡素なマークを見ながら、私は思う。
私は悪くない。スカイプとはあくまで通話ツールであり、それをどう扱うかは個人の自由だ。オンラインゲームをやっているときなどは、ボイスチャットによる指示は重要だ。ちょっとした会話が無料で行えるスカイプは、インターネットを使うものならば入れておくべきだ、と私は思う。
だが彼はそれが気に入らないらしい。会話を楽しむツールを、相槌をうつ為だけ、分からないところだけを聞いてあとは放置が気に入らないようだ。
じゃあ、つなげている間は、延々と会話を続けるのが良いとでも思っているのだろうか。まず間違いなくそんなことは出来ない。
顔も見えない相手と、果たして情報だけで会話が続くとは思えない。現実社会で会話がおぼつかない私でも、スカイプを通じてならかなり饒舌に喋ることは出来る。
だがそれは会話の応酬によってのみ出来ることで、尽きない話題は無いのと同じように、会話にだって終わりはある。彼は極端な話、そうなるのならスカイプをやめろ、と言っているのだ。きっと。
でも私はそんなことを気にしない。
スカイプとはくだらない、一言だけの会話でも必要であると思っているから。
だから今日も、そんなくだらないことで彼とスカイプをする。
まずは昨日のことを話す。彼の大好きな意味のあるスカイプを。
作品名:ジコチュースカイパー 作家名:ドブ川