8割の海、2割の灯台
社会を動かすのは、いつの時代もわずかな先駆者だと言われる。パレートの法則、八割と二割の法則や、イノベーション普及論のオピニオンリーダー理論。統計の裏付けがあるわけではなくても、体感としてうなずける数字だ。持続可能な社会づくり、つまりSDGsを日常で実践している人が二割前後という調査結果は、それを改めて教えてくれる。
では、残りの八割はどう捉えればいいのだろう。
無関心、怠慢、保守的、そう切り捨てるのは簡単だ。しかし実際には、彼らは「動かない」のではなく「まだ動けない」だけかもしれない。情報が足りない。時間が足りない。日々の暮らしで手一杯。小さな選択を変える余裕がない。そこには理由がある。
大多数は受け身に見えて、実は大きな潜在力を抱えている。火がつく条件さえ整えば、一気に広がる海のような力。八割は社会を支える安定基盤であり、二割が示す方向を見極めてから一歩を踏み出す“準備中”の層でもある。
だからこそ、二割の役割はただ旗を掲げるだけではない。残り八割が“得だ”“楽しい”と感じる仕組みをつくり、生活に自然に溶け込む小さな行動へと導く、それが本当のリーダーシップだ。
海を満たす水がなければ、灯台はその存在意義を失う。灯台がなければ、海は暗闇を漂うだけだ。二割の灯台と八割の海、どちらも欠けてはならない。変化を生み出すとは、その両者が出会う瞬間をいかに育てるかに尽きる。
まだ動くタイミングを待っている八割を、あきらめではなく希望として見る。
その視点こそが、持続可能な未来をひらく最初の一歩になる。
作品名:8割の海、2割の灯台 作家名:タカーシャン