値上げできないもの
スーパーに並ぶ値札が、毎週のように塗り替えられていく。
電気、ガス、交通費。
家計簿の数字はじわじわと膨らみ、
日々の暮らしは小さなため息で埋め尽くされる。
しかし――
米やパン、味噌汁の湯気。
季節ごとに食卓を飾る地元野菜。
これらはたとえ世界がどんなに騒いでも、
“値上げしてはいけない”と私は思う。
理由は単純だ。
それらは単なる主食ではなく、
心を支える食材だからだ。
炊きたてのごはんをほおばるとき、
祖父母の笑顔や、子どものころの夕暮れがよみがえる。
食卓を囲む時間は、
貨幣の相場に換えられない記憶と結びついている。
値段が上がれば、
その記憶ごと遠ざかるようで怖いのだ。
もちろん現実には、生産にもコストがかかる。
農家や漁師、パン職人の努力があってこそ
私たちは日々の一膳を口にできる。
だからこそ社会全体で守りたい。
主食や庶民の食べ物を、
心の値段で手渡し続ける仕組みを。
値上げが止まらない時代にこそ問われる。
私たちは何に値札を貼り、
何を永遠の“心の食材”として残すのか。
その選択こそが、
これからの豊かさの指針になるのだと思う。