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タカーシャン
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novelistID. 70952
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舌の座を奪うもの タイノエという生き方

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舌の座を奪うもの タイノエという生き方

海のなかには、想像もしない生き方を選ぶ者がいる。
タイノエ。小さな甲殻類でありながら、海をただ漂う幼生の時期を経て、やがて一匹の魚に生涯を賭ける。彼らはまず、プランクトンのように光の粒を浴びながら、運命の宿主を探す。数え切れない魚たちの群れを見送り、やっと見つけた一匹の鯛のエラに潜り込む。その瞬間、彼らの“自由”は終わり、まったく別の旅が始まる。

最初はどの個体もオスだ。
エラにしがみつき、血を吸い、栄養を奪いながら成長する。だが、そこには奇妙なルールがある。先に成長した一匹だけが、やがてメスへと変わる。性別さえ、彼らにとっては固定されたものではない。環境に合わせて自らを変え、生き残りを図る。海という過酷な舞台では、「男であるか女であるか」よりも「どう生き抜くか」の方がずっと大切なのだ。

メスへと変わったタイノエは、ついに口の中へと移動する。
狙うは宿主の舌。血管を断ち、舌を萎縮させ、自らがその代わりになる。魚は舌を失うが、完全には奪われない。タイノエ自身が舌となり、魚は食事を続ける。奪いながら支える――捕食とも共生ともつかない、不思議な関係がそこに成り立つ。

海の奥深くで、魚と一匹の小さな寄生者がひとつの生を重ねる。
奪う者と奪われる者、支配する者と依存する者。けれど境界はあいまいだ。魚が生きることでタイノエも生き、タイノエが舌として働くことで魚もまた食べ続けられる。奪うことと与えることが、同じ一点に重なる。

私たち人間の世界にも、似たような関係がある。
誰かの夢にしがみつくことで自分の居場所を得る者。
他者に支えられながら、自分の役割を果たすことで相手を支える者。
依存と共生の境界は、きっと海の中よりも曖昧だ。

タイノエの一生は、決して美談ではない。
けれど、「奪う」と「支える」を同時に生きるその姿は、私たちが抱える矛盾の鏡のようにも見える。
海の底で、今日も一匹の鯛が、舌の代わりに小さな生きものを抱えながら、静かに泳いでいる。