蠅と肉
行灯が照らす赤錆びた顔は肉がこけ、額や頬の染みがぼつりぼつり黒く浮かび上がっていた。髪は灰を吹いた百舌の巣のような色をしている。薄い眉毛の下は閉じてあり、尖った頬骨から大きな皺が何本も顎へ垂れ下がって唇がそれへ倣う。大きな蝿がぶんぶん留まるもので、皺だらけの細腕が時折顔を叩いた。
三畳間には突っ掛かった泥汚れが上がり框から布団まで続いているようだが、どこもかしこもそうで、毛羽立った畳は所々穴になりかけている。
仏壇は戸が開いたままだ。隣に立つ棚は上半分の引き出しがない。鉄瓶や火鉢さえない、着物も衝立に掛かっていなかった。
節榑だった指が櫛のように三本ほど髪に分け入れられて肌を掻き、蝿が来ては追いやられた。その内に絶えそうな寝息が聴こえてきたが、小半時で止む。
蝿の羽音が壁に染みていき、狙いを定めて蝿は吸う。何を思いもせず無心で喰らう。
朝が来た。床の上には元の通りの寝格好があり、蝿がたかっている。
用のあった大家が一頻り男を揺さぶっても返事をしない。仏についた蝿をぱちりとやってしまうと、大家は指に粘る蝿を袖口に拭い人を呼びに出て行った。