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だってさ

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「ちっこ。」
そう言って 鼻の上に皺を寄せるが 嫌な顔つきではない。
「ホント ちっこ」
漫画を読むあいつの背中に向かって言い放つ。
「ちっこ。ちっこ。・・・ちっこ。」
オトコのあいつにはどんな風に聞えているんだろう。この言葉・・・。
「ねえ、じゃあ キミの特技を言ってみてよ」とあいつに訊く。
半分笑って、いや にやけた顔つきで訊く。

事の始まりは ドラマに出ていた役者さんを(いいよね)と言ったことから(かっこよくないよ)と反撃をしてきたそれだけなのだ。
「だからね、カッコいいってのは 容姿とか声とかじゃあないのよ。じゃああなたの特技は何?」
漫画本から目を離す様子もなく、もちろん振り向くなんて様子もないままにあいつが唱える。
「心から守りたいとか 優しくして 幸せに・・(ぶつぶつぶつ)」
「だからさ、それって特技? わたしの気持ちを鷲掴みにするくらいの特技は何?」
特別な技能のことではないのだ。ただ面白がって言い負かしたいような楽しい会話のひとつでしかない。意味だってどうでもいい戯れの言葉を明るい声で話しているのに 熱くなることも その煮え切ることもまるっきりないあいつの様子に わたしはわりと効果的かと投げかける言葉を放ちつつ、部屋を開ける。
「好きよ。好きなんだから。だからね。どうなのよ」
まだぶつぶつと 聞えてくる音のような声に また言ってしまう。
「ちっこ。」
「どうして、わたしがカッコイイよねという役者さんのことは良く言わない癖に 自分は テレビの中のあの子がかわいいとかこの子はどうとかいうのにね。気持ち ちっこくない?」
「・・・やきもち」
「もう まったくちっこいね」
「やきもち焼かせたいとか 関心持って欲しいとか」
「ますます ちっこ。もういいよ。つまんない人ね」


これが 若いふたりの会話の一幕ならば 面白味も深いかもしれないけれど 還暦を過ぎた夫婦のほんの数分の生活の流れに挟まった小枝のような時間。出来損ないの線香花火よりもしょぼい火花のまじわり。なのに そこに存在しているふたり。


まだ わたしの方に背中を向けたまま 漫画本に目を向けているあいつ。
目の前のティッシュペーパーをシュシュっと抜き、目頭と鼻水を拭いている。
鼻を啜り上げ、感動の物語にご執心のようだ。
「やばいな。三話ごとに泣ける」グススス…

はぁ・・・ため息とも言えないものがわたしの口元から零れる。

急に振り向いた。
「尊敬していたから 一緒になったんだよな」
急に何を言い出したかと訊き返す。
「尊敬? 尊敬って 尊び敬う尊敬?」
「尊敬でしょ?」
「それは 俺さまが上から目線なの?」
あいつは、漫画本を開き その文章を読み上げた。
確かに 物語には重要な設定らしい。しかし、 しかし、

まあいい。これが円満という名の物語ならば・・・。 『完』だよね

某のど自慢なら 鐘ひとつだよね



   ― 了 ―
作品名:だってさ 作家名:甜茶