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タカーシャ
タカーシャ
novelistID. 70952
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そのままにしておけない

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『そのままにしておけない』

コップを持つ。
まだ湯気が立っている。
あるいは、冷気がうっすらと結露している。

「今だ」
心の奥で、何かがつぶやく。

新鮮なうちに。
冷たいうちに。
温かいうちに。
感じるうちに。
飲み干してしまわなければ──と。

この衝動には、どこか覚えがある。

中途半端に終わったあの日の会話。
返されなかった手紙。
曖昧なまま、二度と会えなくなった人。
形にならなかった夢。

「ちゃんと終わらせられなかったこと」たちが、心の奥で今も居場所を探している。

だから僕は、飲み物すらも「そのまま」にしておけないのかもしれない。
今、確かにここにあるものを、ちゃんと飲み切っておきたい。
曖昧にしたくない。
取りこぼしたくない。
自分のものとして、完結させておきたい。

それは執着というより、祈りに近い。
もう二度と曖昧に終わらせたくない、という小さな決意のような。

でも──本当に大切なものって、もしかしたら「残る」ことにも意味があるのかもしれない。
最後まで飲み干せなかった言葉、
飲み残された沈黙、
湯気の向こうに消えていったぬくもり。
それらが心の奥で、静かに、確かに、僕をつくってきた。

今日も、飲み物はすぐに空になった。
けれど、ふと立ちのぼる香りだけが、まだそこにある。

「そのままにしておく」ことを、少しずつ、許せるようになりたい。