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タカーシャ
タカーシャ
novelistID. 70952
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森のベンチと働き方の話

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「森のベンチと働き方の話」

春の風がやわらかく吹く昼下がり。
総務部の若手社員・遥(はるか)は、社内の中庭にある古い木のベンチに腰を下ろした。

目の前には、ひとりの年配社員——定年を目前にした山下さんが、ゆっくりと缶コーヒーを飲んでいた。

「やれやれ、今日もまたやることが山盛りで…」
遥のぼやきに、山下さんは目を細めて笑った。

「若いってのはいいな。だけど、全部やろうとするなよ。」

遥は、目を見開いた。「え?全部やらなきゃ、まわらないですよ。」

「……それは、“まわらないような働き方”になってるだけだ。」



山下さんは言った。

「昔、俺も同じだった。誰よりも早く出社して、誰よりも残ってた。
でもな、ある日倒れて、3週間入院したんだよ。そしたら、何も困らなかった。
俺がいなくても、会社は回ってた。」

遥は驚いた。「…でも、責任があるし、自分がやらなきゃって思ってて。」

「責任ってのはな、“抱える”ことじゃない。“引き受けた上で、正しく手放す”ことだ。」

「正しく手放す…?」



山下さんは、ベンチの木の節を指でなぞりながら言った。

「たとえば、木は全部の枝に同じだけの栄養を送ったら倒れちまう。
本当に伸ばすべき枝にだけ、力を注ぐんだ。
お前も、自分の“今”に合う枝を選べばいい。」

遥は、ノートを開いた。
「じゃあ、何を基準に選べばいいですか?」



山下さんは、指を三本立てた。

「一つ目。“これは、今日じゃなきゃいけないか?”
 二つ目。“これは、自分じゃなきゃできないか?”
 三つ目。“これをやったら、何が動くか?”」

「……なるほど。」

「それを毎朝、5分だけ考えてみろ。そうすりゃ、“がんばる”より“選ぶ”のが上手くなる。」



缶コーヒーを飲み干した山下さんは、ゆっくりと立ち上がった。

「働き方はな、“がんばり方”じゃなく、“削り方”で決まるんだよ。
どれだけ自分を守りながら、やるべきことに集中できるか。それが“プロ”ってもんさ。」

遥は、ベンチに座ったまま、風を受けた。

なんだか少し、心が軽くなった気がした。



その日の帰り道。
遥はふと、メールボックスを開いたが、開いていないメールを20通、そっと閉じた。

「今じゃなくていい。私は、選んで働いていいんだ。」

それは、ただの“手抜き”ではない。
自分の力を守る、立派な「働き方の技術」だと、森のベンチが教えてくれた。



おわりに

無理をしないことは、甘えではなく、
続けるための大人の知恵。
あなたの「削る勇気」が、未来の仕事を整えていく。