聞くことから始まるまち
「困ったことがあったら、相談してね」
そう言われても、本当に相談できる人はどれくらいいるだろう。
私たちのまわりには、悩みや問題を「話さない」人が驚くほど多い。
いや、正確にいえば、「話せなかった」人たちだ。
子どもの頃に、話した内容が広まり恥をかいた。
勇気を出して相談したのに、「気のせいだよ」と一蹴された。
親にも先生にも、「がんばれば乗り越えられる」としか言ってもらえなかった。
そういう経験のひとつひとつが、心の扉に鍵をかけてしまう。
本当は、聞いてほしかっただけなのに。
相談する文化は、聞く文化から始まる。
そして聞く文化とは、「相手の声を排除せずに受け入れる文化」だ。
「それは間違っている」と正すよりも先に、
「あなたはそう感じたんだね」と受けとめること。
「なんでそんなことをしたの?」と責めるよりも、
「どうしてそんな気持ちになったのか、聞かせてくれる?」と心を寄せること。
相談できるまちには、「話せる人」よりも「聞ける人」が必要だ。
それも、完璧な答えを出す人ではなく、ただ黙って耳を傾けてくれる人。
答えなくてもいい、沈黙でもいい、
その人がそばにいるだけで、「ああ、自分はひとりじゃない」と思えるような。
わたしたちは、間違いもするし、迷いもする。
悩んで、傷ついて、それでも生きている。
だからこそ、悪いことも、弱いことも、排除しないまちにしたい。
困ったときに「ここなら話せる」と思える空気を育てていきたい。
「誰にも言えなかった」をなくしたい。
「話してよかった」と思える場所を増やしたい。
相談は、ただの言葉のやりとりじゃない。
それは「この世界に、自分の居場所がある」と確認するための営みだ。
だから私はこう信じている。
相談できるまちは、やさしさが循環するまち。
聞く力を育てることが、地域をあたたかくする第一歩。
小さな声を、静かに、大切に聞く。
そんな人がひとり、またひとりと増えたとき、
そのまちは、もうすでに希望の光を宿しているの
作品名:聞くことから始まるまち 作家名:タカーシャ