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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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迷子たち

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大人になっても隆一はこの話が好きだった。俺も、好きではないが嫌いでもなかった。



「うわーん!うわーん!おがあざーん!」

ショッピングモールの中でとうとう隆一が泣きわめきだす。端的に言うと俺たちは迷子で、堪り兼ねた隆一が泣き出してしまったのだ。

その日は母親父親とショッピングモールに俺は来たが、俺は両親とはぐれ、同じく母親とはぐれた隆一だけを偶然に見つけた。

周囲を歩く見知らぬ大人たちは、自分たちをどうしていいものかまだ迷っていて声を掛けられないでいる様子だった。幼い俺は、大人の考えるさまざまな危機意識など頭にない。迷子となった途端不安になっただけだ。

とにかく隣で泣いている隆一がうるさいし、自分だって大変なのに隆一の世話までしていられない。

「うるさいな!泣いてたら見つからないよ!」

隆一は涙でべしゃべしゃになっていて、Tシャツで顔を拭こうとおなかを出していた。

「うっ…おかあさ…おかあさーん!」

涙を拭き終わってまた次の涙を生産している隆一を呆れて見ていたけど、どうやら自分しか自分たちの親を探せる人材はいないと俺は気づき、辺りをきょろきょろ見回していた。その時だ。

誰かが来る。こっちに向かってる!女の人だ!どうしよう!逃げなきゃ!

誰かがこちらに向けて両手を広げ近づいてきているのが見えた時、俺は総毛立ち、隆一の手を引っ張って逃げようとした。怪しい大人につかまってどうなるなんて知らなくても、「しらない人はこわい人」と教わっていたからだ。

「隆一!あのオバサンこっち来る!つかまっちゃうよ!はやくにげよう!」

俺は残念なことに、隆一の母親を二度しか見たことがなく、自分で思っているよりよっぽど混乱していた。

だから、その女性に向かって隆一が突然駆けだしたときに置いて行かれて唖然としたし、どういうことなのかわからなかった。

「おかあさーん!」



その後俺は大人になって、親友の母親を一度でも「危ないオバサン」扱いしたことを、当の隆一の母から散々に笑いのタネにされた。隆一の実家にはもうほとんど行かないが、隆一が俺の名前を実家で出すたびにその話が出るらしい。

隆一は今目の前で、缶酎ハイを手にぶら下げてえへらえへらと笑っている。

「んでよ、「ちょっとお馬鹿なナイト」だってさ。ひひひっ!」

俺はこの話に愛想よく乗ることはしない。しかし拒否もしない。今更恥ずかしいなんてもう思わないが。

「あっそ」

隆一はさも愉快そうに笑い転げた。



おわり
作品名:迷子たち 作家名:桐生甘太郎