演じる、わたし
気づくと、わたしはいつも誰かを演じている。
職場では「きちんとした人」。
友達の前では「明るくてノリのいい人」。
あの人には「ちょっと頼りがいのある自分」を、
この人には「かわいげのある自分」を。
まるで役者みたいだ。
シーンごとに衣装を変え、言葉遣いもトーンも変えて、
その場にふさわしい「わたし」を演じている。
でも、ふとした瞬間に思う。
いったいどれが本当の自分なんだろう?
わたしは、わたしの人生をちゃんと生きているのだろうか。
それとも、ただ役をこなしているだけなんじゃないか。
そんなことを考えていたある日、ふと鏡を見た。
鏡の中の自分は、どこか疲れたような顔をしていた。
きっと「いい自分」でいようと、がんばりすぎていたのかもしれない。
だけど思い直す。
どれも演技じゃない。
どれも、たしかに「わたし」だった。
人に合わせているつもりでも、それは「誰かに喜んでもらいたい」という、わたしの素直な気持ちだった。
無理してるようで、意外と楽しんでる自分もいた。
「変幻自在」なのは、嘘をついているからじゃなく、
それだけたくさんの側面を、自分が持っているから。
ひとつの色じゃ足りない、モザイクみたいな存在だから。
そう思えたとき、
わたしは、少しだけ自分が好きになった。
そして、今日もまた
新しい「わたし」を演じる。
いや――生きる。