あなたは、たぬきだよね。
そう言われて、あなたはムッとするだろうか。
でも私は、それを最高の褒め言葉だと思っている。
「図太いよね」
「抜け目ないよね」
「うまく立ち回るよね」
「ちゃっかりしてるよね」
全部まとめて、「たぬきだね」。
人と人の間で生きるというのは、時に正面突破ばかりでは苦しい。
真正面から当たってばかりじゃ、潰れてしまうこともある。
時にはスリ抜けて、時には煙に巻いて、時には笑ってごまかす。
でも、そうやって今日までちゃんと生きてきた。
それって、すごいことじゃないか。
「人をだますなんてひどい」と言う人もいる。
でも現実には、“だます”のではなく、“守るために演じる”ことだってある。
本音をそのままぶつけることが誠実だとは限らない。
言葉を選び、空気を読み、誰も傷つけずにすり抜ける。
それは一つの才能であり、強さだ。
きれいごとだけじゃ生きていけないこの社会で、
あざとくても、器用でも、不器用でも――
自分の足で立ち、自分の術で生きる人を、私は尊敬する。
だからこそ言いたい。
あなたは、たぬきだよね。
すごいよ、あなた。
その抜け目のなさも、
その笑顔の奥に隠したしたたかさも、
きっとあなたの「生きる術」なんだ。
『たぬきのほんね』朗読劇
たぬき(ゆっくりと)
あーあ、まただよ。
また人間たちが、ぼくたちのこと勝手に決めつけてる。
「お前、たぬきみたいだな〜」
って、どんな意味よ、それ?
(少し怒った調子で)
ちゃっかりしてる?
腹黒い?
ずるい?
……ふざけないでよ。
たぬき(早口気味に)
そっちこそどうなの?
どこにでも道路つくって、山を切り開いて、
夜中でもピカピカまぶしい光つけてさ。
「たぬきが出た!」って、出たんじゃない、そこ、もともとぼくの家だよ!
たぬき(語りかけるように)
ぼくたちはね、争いたいんじゃないんだ。
ただ、静かに暮らしたいだけなんだ。
でも、森はどんどん減っていく。
食べ物もなくなる。
だからしかたなく、街へ出るんだよ。
たぬき(じっと見つめるように)
それなのに、「たぬきタイプ」だとか、「ずるいヤツの象徴」だとか、
笑いものにして――勝手すぎるよ。
だったらさ、こっちだって当てはめてみるよ。
たぬき(毒舌風に)
あそこのおじさん、「クズ人間」タイプ!
便利さのためなら何でも捨てる。心もルールも全部ぽいっ!
そっちの兄ちゃんは「カス人間」タイプ!
声だけでかくて、他人のせいばっかりしてる!
……あ、ごめん、言いすぎた?
たぬき(優しく、でも芯のある声で)
ほんとはね、怒りたいんじゃないんだ。
ただ、わかってほしいだけ。
ぼくらだって、心がある。
家族がいる。
好きな場所がある。
そして――
生きてるんだよ。
たぬき(穏やかに)
たぬきに学ぶなら、
どうか、“ずるさ”じゃなくて、“しぶとく生きる力”を。
どうか、ぼくらの静かな叫びに、耳をかたむけてください。
『たぬきのほんね』
「動物の声に耳をかたむける」物語
昔むかし――
じゃなくて、「今」このとき、
森のすみっこで、小さな声が聞こえました。
それは、あるたぬきのつぶやきでした。
ねぇ、人間さん。
ちょっと聞いてくれる?
最近さ、
「お前って、たぬきみたいだよな〜」って
笑いながら言う人が多いんだって。
ちゃっかりしてる?
図太い?
二枚舌?
――そんなふうに言われると、ちょっと悲しいんだ。
だって、ぼくら、そんなふうに生きたくて生きてるんじゃない。
ただ、必死に、生きてるだけなんだよ。
夜はこっそりごはんを探して、
人間のつくった道路に気をつけて、
家族を守って、
なるべく目立たないようにしてるんだ。
それなのに…
「たぬき出た!」って、
まるで悪者みたいに言われる。
でもさ、そこ、もともとぼくらの家だったんだよ?
ねぇ、なんで人間って、
勝手にぼくらのこと当てはめるの?
性格?イメージ?
勝手にラベルを貼って、
「たぬきはずるい」って決めつける。
じゃあ、こっちも決めつけていい?
「クズ人間」タイプ――
すぐに自然をこわして、ゴミを投げて、
自分のことばっかり考えてる。
「カス人間」タイプ――
大きな声ばっかり出して、中身はスカスカ。
そんな人も、いるよね?
……あ、ごめんね。
言いすぎたかも。
でもね、ほんとは怒ってるんじゃない。
伝えたいだけなんだ。
ぼくら動物だって、
心がある。
仲間がいる。
住む場所が必要なんだ。
それを…
いつのまにか、なくされていくのが、
苦しいだけなんだ。
もし、ぼくらを“たとえ話”に使うなら――
どうか、バカにしないで。
どうか、尊敬をこめて。
たぬきに学ぶなら、
ずるさじゃなくて、「しぶとく生き抜く力」を。
誰にも負けない、“生きる知恵”を。
それが、
ほんとの、ぼくたちの姿だから。
その声は、また森の奥に消えていきました。
聞こえたかどうかは、人それぞれ――
でも、耳をすませば、
きっと、あなたのすぐそばでも、
動物たちの「ほんね」が聞こえてくるかもしれません。
作品名:あなたは、たぬきだよね。 作家名:タカーシャ