心がエンジン
夕立あがりの田んぼ道
ランドセルじゃない、
制服のリボンが風に揺れる
まもなく、駅に電車が来る
かすかに響く、レールの音
カンカン、と踏切が遠くで鳴る
彼女は走る
麦の香りのなかを、
ひとりだけのレースのように
夏草の背丈と同じくらいのスピードで
駅のホームが近づく
そこに、
汽笛もあげずに
電車が、やさしく止まっていた
ほんの少しだけ、遅れても
田舎の電車は、怒らない
それどころか、
車掌さんが笑っている
心がエンジン
時間じゃなくて、気持ちで走る
田舎の電車は、いつだって
優しさを最優先にしてくれる
今日もまた、
誰かの「がんばった」に
そっと間に合ってくれる