サボテンと檸檬
あつ子
「で、年明け早々あんたは何に悩んでんの。」
大学のお昼休憩の時間、私は親友の『あつ子』といつものように食堂で他愛のない会話を繰り広げていた。
「また健ちゃんですか。」
「また健ちゃんです。」
あつ子は眉上パッツンに切り揃えられた前髪を気にしながらカレーを一口食べた。
「もうこの際だから言うけどさ、とっとと告白して振られなよ。
何年片思いしてるの?中三からだよね?ぼーっとしてたら誰かに取られるよ~。あ、もう取られたか。」
自分でも呆れている。伝えるチャンスは何十回、何百回と合った。
手紙も描いてあるし、メールも下書きに保存してある。
だから後は伝えるだけなのだが勇気が出なかった。
「それが無理なら忘れな。第一、その健ちゃんは実里の気持ちなんて全然気付いてないんでしょ?しかもこの前まで他の女のモノだったんだよ。あんたはただのクラスメイトだったってこと。」
バッサリ切り捨てられ落ち込むかと思いきや私は妙に納得してしまった。いくら想っていても伝えなくては意味がない。
私は空になったペットボトルを蛍光灯に透かした。
散らばるひとつひとつの水滴に光が宿り幻想的に瞳の中へと映った。
手の届かないものを眺めることには昔から慣れているせいか、
それが当たり前だと感じてしまうことが何よりも哀しかった。
「一生眺めているだけでいいの?」
あつ子はサラダに入っている苦手なトマトだけを残し私のペットボトルも、と、一緒にゴミ箱へ捨てに行った。『簡単に手放して捨てることが出来たらどんなにラクになるのだろう。』、ゴミ箱へと走るあつ子の後姿を見ながら呆然としていた。