サボテンと檸檬
一本の電話
その夜、健ちゃんから一本の電話があった。
来月行われる学生のバンドが多数出演するライブに自分のバンドも出演するから来て欲しいとのことだった。が、私は断り、ひとりベッドに勢いよく倒れ込んだ。
こんな気持ちのままでは会えない。
きっと来月も、私は彼を好きなままで、ずっと想い続けて、彼の姿を夢見て、ああ、私は振られたんだった、初めての恋だったからこの気持ちにまだ慣れなくて、みんなこんなに苦しい気持ちになって、乗り越えていくのか、でも教えてほしい、私が彼を想い続けていた期間は、あの戻らない時間たちは、どこに持っていけばいいの?みんなはどこに置いているの?捨てなくてはいけないの?叶わなかった、届かなかったこの心は、誰かに握りつぶされているような痛みがして、今にも砕けてしまいそうだよ。
窓辺の枯れてしまったサボテンを私は未だに捨てられずにいた。
枯れ果てた情けない姿を見て何故かその瞬間、「生きていた証だ」と、緊張で強く握りしめていた両手の力が抜けた。彼の側にいるときだけでも、元気で居てくれて本当に良かった。
あんな姿を見たら、きっとショックを受けてしまう。
だから、良かった。
結末を、私が引き取ってしまったことを彼は後悔をしていないだろうか?
そんなので良いのだろうか。そんなもの、なのだろうか。
テレビやSNSでは今夜の皆既月食で持ちきりだったが私は早めに布団に入りただひとり夜明けの合図を待っていた。