サボテンと檸檬
最低
それから私たちは街灯の下で少しだけ立ち話をし、再び駅へと歩き出した。
「この工事、いつ終わるんだろうね?」なんてお互い特に興味もないであろう当たり障りのない会話をいくつか繰り広げ健ちゃんが私の話なんかに相槌を打ってくれる度、その優しさの小さな棘がチクチクと心に刺さって気付けば大粒の涙を足元に零した。
「サボテン、枯らしちゃって本当にごめんなさい。」
健ちゃんは何も言わず優しく微笑んだ。
だから、この先もずっと自分だけ知っていればいいと思っていた内の感情までつい甘えて言ってしまった。
「私、本当はね、枯らしちゃったとき、ほっとしたの。ずっと好きだったからかな。最低だよね。」
「最低じゃないよ。」
「最低だよ。」
「俺にとっての最低だなあって思うのは、似たような同じサボテンを用意して返すことかな。だってそのことを知らずに自分はこれからずっとそのサボテンを前と変わりなく育てていくんでしょう?彼女が育てていたサボテンではなく“ただのサボテン”を。怖いよね。」そこで一息ついて健ちゃんは私の瞳を真っ直ぐに見つめて続けた。
「だから、正直に言ってくれた実里は最低じゃないよ。」