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テッカバ

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血祭オンステージ 1


 ――私が最初に彼女を知ったのは、入学して間もない頃の講義中だった。

 この時期一年生が学ぶのは当然ながら一般教養。専門性の高い講義が始まるにはまだまだ時間がある。自慢じゃないが受験の為に必死こいて勉強して、まだ貯金がたっぷりあった頃の私には易し過ぎて退屈なもの。しかし、私の通う東都大学はそこそこ名の通った私立なので、付属から上がってくる子も多いから、受験組と学力レベルを統一しなくてはならないのだ。
 私の横でノートを広げているのは、その頃は知り合ったばかりだったかりん。真面目な彼女は講師がスライド式の黒板に書く何から何まで、それどころか色ペンに持ち替えて重要と思った発言まで書き留めている。
 私の方はと言えば、太字で書かれる単語と意味だけ申し訳程度に書き写すのみ。退屈しのぎにペンを回し、窓の外を眺める。何が悲しくてこんな天気の良い日に教室に、閉じ込められなきゃいけないんだか。
「どうせ由佳は外に出ても何もしないでしょ?」
 かりんが手を止めてくすり、と笑う。
 まあ確かに、外を元気よく走り回ってスポーツするのが好きなクチでもない。高校時代にはラクロスをやっていたが、スカート翻しながら華麗にボールを扱う姿に憧れただけで、別に運動好きというわけじゃなかった。始めてみて、傍から見てるような可憐なスポーツじゃないとすぐに気付いたが、弱小部活だったので辞めるに辞められず三年間。おかげで、走りだけならそこらの男子に負けないぐらいにはなった。
 実際普段私が晴天の下ですることと言えば、屋上でコーヒーを飲んだり、適当な服屋を巡って冷やかすだけ。かと言って、狭い1LDKのアパートに帰っても特にすることは無く、テレビを見たり宿題を片付ける程度。趣味を訊かれたら、大して数見ていることもないのに映画鑑賞と答えておく。
 かりんは何を普段してるんだろ? イメージ的には木陰のテーブルで編み物をしていそうだ。講義中なのであまりべらべらと喋るわけにもいかず、彼女の横顔からテーブルクロスを編むかりんを想像していると、ずっと板書を書いていた講師が学生に向き直って質問をした。
「じゃあ……そこの君。日本とユーラシア大陸の間にあるここは何と言う?」
作品名:テッカバ 作家名:閂九郎