専門家の見解
香織の実家を訪問するのはもともと日帰りの予定だったので、香織の自室でも過ごしたりしながら、十四時頃にはふたりでおいとまとなった。
「今度は、ぜひ香織の父親にも会って下さい。これからも、娘をよろしくお願いします」
別れ際に、誠一は、香織の母親からそう言われた。
企業の面接では、にも関わらずいわゆるお祈りが届くこともあるようだが、さて……そう思いながら、誠一は、バックミラーの中で小さくなっていく立ち姿を見たのだった。
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窓から朝日が差し込む。
書棚には、工学の技術書、洋書、実用書や落語選集等等が並んでいる。
また、「膵臓がんの最先端治療」のような本も、新しめのものが並んでいる。しかし、それらの本はもう手に取られなくなった。願わくは、もう用は無いであろう。
老爺は立ち上がって、その足元はまだ確かだった。背筋はスラッと伸びていて、それは子どもの頃に猫背ぐせを叩き直された賜物であり、健康管理の習慣の賜物だった。
老爺はその朝も、小さな仏壇の前に行く。
その朝も、声をかける。
「おはよう、香織。今日はね……今日はそろそろ、庭のキンモクセイが咲きそうだよ」
そしてその朝も、遺影の前にアーモンドチョコレートを供えた。
(了)