紅葉の年越し(続・おしゃべりさんのひとり言176)
紅葉の年越し
今年の紅葉(こうよう)は遅かったですね。
『異常気象』とかって言葉はもう相応しくないくらい、当たり前のように温暖化が加速していくのが目で見るように分かります。
僕は毎年、どこかしらへ紅葉を見に、所謂『もみじ狩り』に行くんですが。
・・・ところで、なんで『狩り』って言うんでしょう?
平安時代に散策することを「狩り」と呼んでいたらしいとか、『もみじ』と名乗る鬼女を退治した逸話があるとか、もみじを見に行った人が、実際にきれいな葉を手に取って持ち帰るからだとか、諸説様々です。
僕は多肉植物も好きなので、次々と新しい品種を買い集めてしまうんですが、そんな愛好家の中では、多肉植物を品定めして買うことを『多肉狩り』と呼んでいます。ま、肉なんで狩りもアリなのかも。
それに多肉植物も、冬にはカラフルに紅葉するんですよ。これは余談でしたが。
でも今年、10月後半くらいでは、まだ山々は紅葉してなかったんですよね。
トレッキングにいい季節ですが、夏山のようでした。
中央アルプスの駒ケ岳に登っても(なんとなく紅葉してるのか?)くらいにしか見えませんでしたし。
11月に入っても、そんな高山地帯がやっと色付くくらいで、地元の紅葉の名所ではまだ緑のもみじに赤いライトアップをして、『もみじ祭り』を開催されていたのが痛々しい。
ススキでさえ11月後半だというのに、まだ美しい穂を風になびかせていましたし、昔と違ってカレンダーが1ヶ月はズレてる感じがします。
12月になってようやく家から見える山々に、赤や黄色の木が目立つようになりました。
さすがにその頃には、ススキの穂はカリカリになってましたけどね。
今週は地元で紅葉した山々に初雪が降りましたけど、今年の紅葉は枯れて散る前に、年越ししてしまいそうですね。
紅葉が年越しするなんて、異常事態かもしれませんが、それだからこそ僕にはちょっと気になることがあるんです。
紅葉ってのは情緒的に捉えがちですけど、科学的観点からみると面白いものです。
気温が下がってくると、水分を溜め込んでいる植物は凍結を避けるために、栄養成分を調整する機能が働くんです。
氷点下になれば水分は凍り、その結果膨張した氷が細胞壁を壊すので、葉は壊死してしまいます。
そうならないように光合成で葉緑素を造っていた機能を一旦止めて、代わりにため込んだでんぷんを糖に変えて、樹液内に溜め込みだすのです。
そうすることで、凝固点が下げられて水分が凍るのを防ぐことができます。(砂糖水は凍りにくいものですよね)
でも、一気に寒い日が来てしまうと、この準備が追い付かずに、葉っぱが死んで枯れてしまうのです。
反対に、徐々に気温が下がっていくなら、糖を造る段取りがしっかりできて、葉は突然茶色く枯れたりせず、葉緑素が徐々になくなって、その緑が消えていくので葉は黄色や赤が目立つようになります。
これが紅葉(こうよう)のプロセスです。
つまり糖を作る能力が低い植物は、紅葉せずに冬を前に枯れ葉を散らしていくのが早いのに対し、美しく紅葉する葉を持つ植物は、糖をしっかり溜め込んでいるという訳です。
紅葉(こうよう)と言えば、もみじが代表格ですよね。紅葉と書いて「もみじ」と読ませるくらいですから。
そのもみじは糖を作る機能が優れているので、冬場のその樹液は甘く、煮詰めるととても美味しいシロップになります。
カナダには、カエデの樹液から生産される特産品がありますよね。
これがメープルシロップだというのは、誰でもご存じだと思います。
と言うことは、(紅葉する植物なら、どれでもある程度は甘いシロップができるんじゃない?)ってことで、やってみたことがあります。
以前、友達がメープルシロップの作り方を教えてくれました。
樹液を採取するのは、樹木の活動が活発になり始める春先の、水分をたっぷり吸い上げる時期がいいそうです。
彼は専用の樹液採取用の道具を持っていましたが、そんなのなくてもドリルとストローがあればできるそうです。
近所の里山にも、もみじがあります。何という種類かは知りませんが、ご近所さんは単に「モミジ」と呼んでいますが、一般的なイロハモミジとは葉の形が違うので、僕は多分『イタヤカエデ』という種類なんだと思っています。
もしそうだとすると、それはシロップを作るのに適した種類のようです。
樹高は10メートル近くあり、毎年秋にはオレンジ色に紅葉します。
僕は日当たりのいい場所に自生している樹をターゲットにしました。いつもひと際見事に紅葉(オレンジ化)する樹です。
この山は市有地ですが、麓近くは個人の所有地で、うちの町内の自治会が管理していますから、山菜や竹、薪も自由に採らせてもらえます。
そこにバッテリー式のハンドドリルを持って行って、もみじの幹の地面から1メートルくらいのところに、6㎜のドリルビットで深さ3センチほどの穴を開けました。
そこに直径6㎜の曲がるストロー(どこにでもよくあるやつ)を短く切って差しておくと、ポトン、ポトンとゆっくり樹液が垂れ始めます。
ストローを下に曲げて、水滴をペットボトルで受けておくだけです。
僕はそのボトルを木にガムテ―プで固定しておきました。
一晩放置しておいたら、2Lのボトルが溢れるほど、透明な樹液が採取できたんです。
それを自宅に持ち帰り、コーヒーフィルターで濾した後、鍋で火にかけていくと沸騰して泡状のアクが浮いた液体になります。
その段階で舐めてみるとほんのり甘い程度でした。
アクを取りながらさらに30分ほど煮詰めていくと、やや茶色くなり始めましたので、そこでストップ。
100CCも残ってなかったと思いますが、そのお味は、「甘~い」・・・けど、ちょっと生木臭い?
でも大成功でした。
少しドロドロとゼリー状になった部分とかあって、市販品に比べるとやや別物ですが、パンケーキにかけて食べることができました。家族は食べてくれませんでしたけど。
買うと高いのに、意外と簡単に作れたんで、もうちょっと味や品質についても研究できそうです。
僕がさっき「気になることがある」と言ったのは正にこのことで、今年の紅葉期間が長く続いているということは、もう十分樹木内のでんぷんを糖に変換する時間があったということですよね。
きっと今年の樹液はより甘くなっていると予想しました。
来年の早春の頃に、また樹液を採取したいと思っています。
つづく
作品名:紅葉の年越し(続・おしゃべりさんのひとり言176) 作家名:亨利(ヘンリー)