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ボクとキミのものがたり

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【腕時計】




夕陽が眩しかった空は、もうすっかり暮れてしまった。
キミが帰ったリビングで、新しいカーテンを眺めていてもキミのことばかり浮かぶボクが居る。
おセンチな気分は、時間が経つと溜め息に変わることをボクは知った。ボクは、もそっと動き出し、カーテンを閉めて部屋の電灯をつけた。
電灯の明かりで見る部屋は、何だか澄んだ空気を感じた。やっぱり長年かけっぱなしのカーテンは日焼けや汚れでくすんでいたのだろう。
これからキミと過ごすこの空間は 愉しい場所であるようにと想い出の扉を閉じた。

リビング兼独書室という名の仕事場にある机の上は、今は片付けられている。お気に入りの万年筆は原稿用紙とともに引き出しの中で次の出番を待っていることだろう。
出してあげようか? そのままでいいよ。もうしばらくお休みね。

ボクは、さほどお腹は空いていないが飲み物を取りにキッチンへ行った。
そういえば、甘いものばかりだったな。プリンに味見のキス、あ、キミの唇のほうかな。
食器棚から(珍しく)グラスを出し、冷蔵庫を開けたままミネラルウォーターを注ぐと冷蔵庫の前で飲み干した。いつだったか ボトルから口に注ぐように飲んでいたら キミに横っ腹を突つかれて 顔にかぶったことがあった。もうキミは帰ったのに つい警戒してしまった。
グラスをシンクに置こうとしたとき、シンク脇の台にきらりと何か光った。
「あ、忘れてったんだ」
ボクは、グラスを濯ぐとキミが洗った器の横に伏せた。

(キミの私物が愛おしい。可笑しいな、キミじゃないのに手の中に包んでいたい)
そんな人には聞かせられないような言葉がボクの頭の中で遊んでいる。ボクは、指先でそれを摘み上げると、机の所へ戻った。
やっぱり此処が落ち着くのかな。ボクは、椅子に腰掛け眺めた。さきほどまでキミの左手? たぶん左の手首に巻きついていた腕時計を自分の手首に乗せてみた。
「細いな」
淡い桃色の皮のベルトにスクエアの文字盤。文字はローマ数字とひとつ石がはまっているものだ。はて? いつからしているのかなと思い返してもわからない。キミのことをあまり気にしてあげてないのかなと何となく反省した。
今度さりげなく聞いてみよう。「いつも可愛い腕時計してるよね」なんて聞いて「え? 初めてよ」なんて答えられたらどうしよう。

作品名:ボクとキミのものがたり 作家名:甜茶