ボクとキミのものがたり
キミが 席を立った。お料理の先生に教わったのかな…小豆のいい匂いがしている。
七草粥は、食べ忘れてしまったけど、小さめに切ったお餅を焼いておぜんざいした。湯気の立つお椀を座卓テーブルに運ぶキミを見ているだけで まだまだ正月気分だ。
「いただきます」
「はい、あーん」
「あーんってねぇ」
「あ、ふぅふぅする?」
「いやいや、ふぅふぅも あーんも ないでしょ」
「にゃはは。照れちゃうの? 誰も見てないからさ。はい、あーん」
そんなやりとりに キミの箸に摘ままれた小豆が付いた餅は冷めてきていた。
ボクは 観念した。
「あーん」
「にゃあ」とボクの大口を開けている表情に笑うキミ。
「あーん する?」
「恥ずかしいでしょ。…ひとりで食べられるもん」
おいおい、それを言うのか・・・。
キミのペースから抜け出せないボクは やっぱりキミが好きでたまらない。
「あ、にゃ」
キミは バッグから出したコンパクトをパカッと開けてボクに向けた。
「か?・・・鏡開きだね」
新しい年を幾度迎えようと キミはボクを上機嫌にしてくれる。白くて焼くとぷっくり膨れてプフフーと吹きだすお餅みたいなキミと温かなぜんざい。こりゃ夫婦漫才やな。なんて寒い冬も忘れてしまう暖かな部屋のひとときとキミが作ってくれたぜんざい。
ただそれだけなのに……。
― Ω ―
作品名:ボクとキミのものがたり 作家名:甜茶